【解説】転換期を迎える送配電事業

電気を運ぶ設備から、電力システムを調整する基盤へ

送配電網を運営するパワーグリッド部門は、電気を安定して届ける社会インフラを担っています。従来の電力システムは、大規模な火力、原子力、水力発電所から需要地へ電気を送る構成が中心でした。しかし現在は、太陽光、風力、系統用蓄電池、住宅用蓄電池、EVなどが、特別高圧から低圧までさまざまな場所に接続されています。

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電気の流れも一方向ではなくなり、配電線への逆潮流や局地的な電圧上昇、系統混雑への対応が必要です。再エネと蓄電池を個別設備として扱うのではなく、各電圧階層の状態を把握しながら一体的に運用することが、送配電事業者の新たな役割になりつつあります。資源エネルギー庁も、分散型設備を束ねて調整力や出力抑制回避などに活用するVPP・DRの整備を進めています。(エネルギー庁)

データセンターが変える需要想定

もう一つの変化は、電力需要の先行きを見通しにくくなっていることです。人口減少や省エネにより従来型需要が伸び悩む一方、AIデータセンター、半導体工場、EV充電、水素製造などでは、特定地域に大規模な需要が短期間で発生する可能性があります。

IEAは、世界のデータセンターによる電力消費量が2030年に約945TWhへ倍増し、2024年から2030年まで年率約15%で増えると予測しています。個々の計画には中止や延期もあるため、送配電事業者には、単一の予測ではなく、立地や稼働率、実現可能性を織り込んだ複数シナリオによる需要想定が求められます。(IEA)

自由化前は、発電、販売、送配電が一体となった電力会社の企画部門や営業部門が地域の需要動向を把握していました。現在は一般送配電事業者が、中立的な規制部門として地域全体の設備形成を担っています。今後は地域経済や産業投資の分析も、系統計画の重要な要素になりそうです。

設備と人材の更新を同時に進める

送電線、変電所、配電設備の老朽化も進んでいます。更新工事が増える一方、人口が減る地域では設備利用率の低下も見込まれます。それでも災害時を含めて一定の供給信頼度を維持しなければなりません。

現場では、設備建設や保守、給電運用を経験してきた技術者の退職と、工事を担う人材の不足も課題です。従来設備を維持しながら、新しい分散型電源やデジタル制御にも対応するという、二つの仕事を並行して進める必要があります。

これは日本だけの問題ではありません。IEAは、各国のエネルギー目標を実現するには、2040年までに世界で8,000万kmを超える送配電網の新設または更新が必要になるとしています。系統整備が再エネ導入や電化のボトルネックにならないよう、投資、人材、資材、許認可を一体で考える必要があります。(IEA)

広域化と分散化を組み合わせる

今後の系統は、単純に中央集権型から分散型へ置き換わるわけではありません。再エネの適地と大都市の需要地を結ぶ地域間連系線や基幹送電網は引き続き重要です。一方、地域内では太陽光、風力、蓄電池、需要制御、マイクログリッドを組み合わせ、送電量や設備投資を抑える選択肢も広がります。

OCCTOが策定した広域系統長期方針は、2050年カーボンニュートラルを見据え、全国規模で送電網の整備と更新を進める方向性を示しています。英国のNESOも、発電、蓄電、需要、電力・水素ネットワークの場所や規模、導入時期を一体で検討する戦略的空間エネルギー計画を進めています。(オクト)

AIとデジタル化が運用を支える

設備を増やすだけでなく、既存設備をより有効に使う取り組みも進んでいます。米国では、気温や風速などから送電線の実際の容量をリアルタイムで算定するダイナミック・ライン・レーティングが導入されています。条件によっては、従来の固定容量を上回る送電が可能になります。(The Department of Energy's Energy.gov)

AIは、需要や再エネ出力の予測、設備故障の予兆検知、ドローン画像による点検、系統接続審査、災害復旧計画などへの利用が期待されます。また米国では、家庭用蓄電池やEVなどの分散型リソースを束ね、卸電力市場に参加させる制度整備も進んでいます。(Federal Energy Regulatory Commission)

パワーグリッド部門は、今後も安定供給を第一に置きながら、設備、人材、データ、市場を結び付ける役割を徐々に広げていくことになります。送配電網のデジタル化は、既存業務を置き換えるというより、限られた設備と人材を補い、広域系統と地域の分散型設備を無理なく運用するための手段として進んでいきそうです。

出典:OCCTO「広域系統長期方針」

出典:IEA「Electricity Grids and Secure Energy Transitions」

出典:IEA「Energy and AI」

出典:FERC「Order No.2222」

出典:米国エネルギー省「Grid-Enhancing Technologies」

出典:英国NESO「Strategic Spatial Energy Planning」

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