経済産業省は、2026年7月7日、「総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 次世代電力・ガス事業基盤構築小委員会 第1回電力事業環境整備ワーキンググループ」を開催し、GX-ETS(排出量取引制度)の本格導入を受けた卸電力市場での制度設計に関する議論を開始しました。今回の会合では、排出量取引制度そのものではなく、GX-ETSによって発生する費用や収益を、スポット市場やベースロード市場などの卸電力市場にどのように反映させるかという、電力市場制度の根幹に関わる論点が整理されました,。
2026年度から本格稼働したGX-ETSは、年間CO₂排出量10万トン以上の事業者を対象とする排出量取引制度です。2026~2032年度の第2フェーズでは無償排出枠(ベンチマーク方式)が配分され、2027年度から排出枠の割当・市場取引が開始されます。さらに2033年度からは発電部門にも段階的な有償オークションが導入される予定であり、電源ごとの発電コストだけでなく、排出コストが電力価格形成へ本格的に組み込まれる制度へ移行していきます。
GX-ETSと卸電力市場の接点が今回初めて整理された
これまでGX-ETSは主としてカーボンプライシング制度として議論されてきました。一方、今回のWGでは、「GX-ETSを電力市場制度へどう接続するか」が中心テーマとなりました。
事務局は、第2フェーズでは無償排出枠が存在するため、「排出枠の不足による費用」と「余剰排出枠による収益」を卸市場でどのように扱うかが最大の論点になると整理しました,。さらに、スポット市場では市場支配力を有する事業者に対して限界費用に基づく入札が求められていることから、GX-ETSによる費用や収益を限界費用へどのように反映させるかが重要な検討課題になるとしています,。
事務局は制度設計の考え方として二つの案を提示しました。一つ目は、GX-ETSが事業者単位で義務履行や無償枠配分を行う制度であることを重視し、発電事業者全体の排出量と無償枠との差額から費用・収益を評価する「事業者単位」の考え方です。もう一つは、卸市場では発電ユニットごとの限界費用を基準として価格形成が行われている実態を踏まえ、発電設備ごとの排出原単位とベンチマークとの差から費用・収益を評価する「発電ユニット単位」の考え方です。
また、排出量は当年度に発生する一方、排出枠の割当や償却は翌年度となる制度上の時間差を、市場価格へどのようなタイミングで反映するかという論点も提示されました。さらに、スポット市場だけでなく、ベースロード市場、需給調整市場、容量市場、さらには小売の経過措置料金との整合性についても今後検討するとしています,。
委員からは制度設計の方向性について多角的な意見
座長を務めるのは、公益財団法人地球環境産業技術研究機構(RITE)の秋元圭吾システム研究グループリーダーです。
委員のうち東京大学社会科学研究所の松村敏弘教授は、限界費用ベースで入札する市場(スポット市場など)と平均費用ベースのものを分けて考えるべきだと提案しました。特にスポット市場の限界費用入札においては、無償枠があたかもないものとして予想されるカーボンプライスをコストに上乗せすることを許容する制度とすることで、適切な価格シグナルを発信できるのではないかとの考えを示しました,,。
大阪公立大学大学院の五十川大也教授は、市場メカニズムを使って効率的に排出削減を進めるという本来の目標に照らせば、各ユニットレベルで社会コストを反映する「発電ユニット単位」の考え方が自然な方向性であり、第3フェーズへの接続の観点からも有力であるとの認識を示しました。
長島・大野・常松法律事務所の河相早織弁護士は、GX投資へのインセンティブを損なわない制度設計が重要であり、排出削減努力や無償枠の活用が市場制度によって適切に評価される仕組みを求めました,。
オブザーバーとして参加した電気事業連合会の安藤康志副会長は、余剰排出枠の売却益はGX投資へ活用するという制度趣旨を踏まえるべきであり、CO₂排出と費用負担の時期をできるだけ一致させる必要性を指摘しました。
また、電力・ガス取引監視等委員会の田上オブザーバーは、費用だけでなく余剰排出枠による収益の取り扱いも制度設計上の重要論点であるとの認識を示しました。ENEOS Powerの香月有佐副社長執行役員は、SPCや共同出資会社などでは義務履行主体と費用負担主体が一致しないケースもあり、実務面も十分考慮すべきと述べています,。
今後の制度設計が電力市場全体へ波及
今回のWGでは結論は示されませんでしたが、今後はGX-ETS費用・収益をスポット市場、ベースロード市場、需給調整市場、容量市場へどのように組み込み、さらには経過措置料金へどのように反映するかについて制度設計が進められる見通しです,。
発電事業者にとっては、排出コストや無償排出枠の評価方法が発電収益や入札戦略に影響を与える可能性があります。一方、小売事業者や需要家にとっては、GXコストが電気料金へどのような時間軸で反映されるかが重要な関心事項となります。
今回の議論は、単なる環境政策ではなく、「脱炭素価値を電力市場へどのように組み込み、価格として可視化するか」という市場制度そのものの議論が始まったことを意味します。時間価値、地域価値、再生可能エネルギー価値、さらには排出削減価値を市場価格へどう反映するかは、今後の電力市場改革の重要テーマとなるでしょう。
アワリーマッチング推進協議会では、アワリーマッチングや時間一致型の環境価値市場との関係も含め、この制度設計が今後どのように具体化していくのかを継続的に分析し、ニュースサイトで紹介してまいります。
出典:経済産業省 第1回電力事業環境整備ワーキンググループ(資料・議事)