「骨太方針」は、世界認識から作り直すべき

グローバル化を導いた国家戦略から25年。次の時代の設計図は描けているのか

グローバル化への転換を支えた「骨太方針」

政府は7月21日、経済財政運営と改革の基本方針、いわゆる「骨太の方針2026」を閣議決定しました。今回の方針では、「責任ある積極財政」を掲げ、AI、半導体、エネルギー、安全保障などへの長期投資を柱とする新たな成長戦略が示されています。

image

今回の方針の詳細は、内閣府が公表した「経済財政運営と改革の基本方針2026」で確認できます。

財政運営の方向転換として評価できる点は少なくありません。しかし、その一方で感じるのは、「何に投資するか」は示されていても、「日本はこれからどのような世界を前提に国家を運営していくのか」という、より根本的な世界認識が十分には示されていないことです。

小泉改革が目指した国家戦略

骨太方針が誕生したのは2001年、小泉純一郎政権でした。

当時、日本は冷戦終結後の大きな歴史的転換点にありました。東西冷戦下で形成された経済・行政システムから、グローバル経済という新しい時代へ急速に移行しつつあったのです。

モノ、カネ、人、情報が国境を越えて自由に動き、市場競争こそが経済成長をもたらすという考え方が世界の共通認識となり、日本もこの流れに対応する必要がありました。

そのため、それまでの各省庁によるボトムアップ型の政策立案から、官邸主導で中長期の国家戦略を示し、それに基づいて予算を編成するトップダウン型へと大きく舵を切りました。その中心的な役割を果たしたのが、骨太方針でした。

新自由主義や市場重視政策については現在も評価が分かれます。しかし、世界のパラダイム変化をいち早く読み取り、日本の政策決定プロセスそのものを改革したという点で、骨太方針が果たした歴史的役割は高く評価されるべきでしょう。

世界は再び転換点を迎えている

それから四半世紀が経過し、世界は再び大きな転換点を迎えています。

米中対立の長期化、経済安全保障、サプライチェーンの再編、生成AIの急速な普及、巨大テック企業による市場支配、さらには多くの国で拡大するデジタルサービス収支の赤字など、かつての「市場が世界を統合する」という前提は揺らぎ始めています。

欧州では域内産業を保護する制度整備が進み、米国も積極的な産業政策へ転換しました。自由競争だけではなく、安全保障や経済主権という観点から、市場そのものを国家が設計する方向へと世界は動いています。

日本の世界観は十分に更新されたのか

もちろん、今回の骨太方針にも経済安全保障や戦略産業への投資は盛り込まれています。

しかし、その基本的な前提には、日本企業が引き続き世界市場で競争し、海外市場を取り込み、海外企業の日本市場への参入も基本的には受け入れながら経済成長を目指すという、グローバル経済を前提とした構図が色濃く残っているように見えます。

その考え方が誤っていると言いたいのではありません。

しかし、その前提そのものが現在の世界情勢にどこまで適合しているのかを、一度立ち止まって検証する時期に来ているのではないでしょうか。

まず必要なのは「答え合わせ」

本来であれば、ここで過去25年間の総括が必要です。

グローバル化は日本企業の競争力をどこまで高めたのか。

海外生産の拡大は日本経済にどのような影響を与えたのか。

外資の参入は国内市場を活性化したのか。

巨大テック企業への依存は、日本経済に新たな課題を生み出していないのか。

こうした「答え合わせ」を行い、新しい世界の構造を認識した上で、次の国家戦略を描くことが、本来の骨太方針に期待される役割ではないでしょうか。

次の25年に向けた骨太方針へ

骨太方針とは、本来、翌年度予算の方向性を示す文書ではありません。

世界がどのように変化し、日本がその中でどのような国家を目指すのかという、国家の設計思想を示す戦略文書であるはずです。

25年前、骨太方針はグローバル化という新しい時代への転換を後押ししました。

そして今、世界は再びパラダイム転換の只中にあります。

だからこそ、必要なのは新しい政策を積み上げることではありません。

まず世界の変化を分析し、過去25年間を検証し、その上で次の四半世紀を見据えた新たな国家戦略を描くことです。

骨太方針もまた、「世界認識」そのものからアップデートする時期に来ているのではないでしょうか。