世界では成長継続、日本は普及が緩やか
IEAによると、2025年の世界のEV販売は2,000万台を超え、新車販売全体の約25%を占めました。中国では約1,300万台が販売され、新車の約55%がEVとなり、世界最大の市場を維持しています。欧州でも約420万台が販売され、新車販売に占める割合は約28%となりました。
東南アジアでも普及は急速に進んでいます。タイでは2025年のEV販売が約14万台となり、新車販売の約25%を占めました。タイ政府は「EV3.5」政策により最大10万バーツの購入補助金や輸入関税・物品税の軽減を実施し、中国メーカーの現地生産を後押ししています。その結果、BYD、MG、GWM、NETAなど中国メーカーが市場を急速に拡大し、これまでトヨタ、日産、ホンダなど日本メーカーが圧倒的なシェアを持っていたガソリン車市場の構図が大きく変わり始めています。
一方、日本では2025年のEV販売は約10万台、新車販売比率は3%未満にとどまっています。国のCEV補助金では最大130万円、東京都でも追加補助制度が設けられるなど支援策は充実しつつありますが、HEVの人気が依然として高いことや、集合住宅での充電設備不足、車種の少なさなどが普及の課題となっています。
米国では2025年まで市場拡大が続いたものの、EV税額控除制度の終了など政策変更の影響を受け、販売はやや減速しました。世界全体を見ると、「EV失速」というよりも、地域によって成長速度に差が生じている状況と言えます。
普及を左右する政策と市場環境
EV市場の拡大は、自動車メーカーの技術力だけでなく、各国の政策によって大きく左右されています。
欧州ではCO₂排出規制の強化により、自動車メーカーはEV販売比率を高めることが求められています。中国では補助金政策に加え、巨大な国内市場と価格競争力を背景に、EVがガソリン車より安価となる車種も増えています。
日本では補助金制度は整備されているものの、HEVが燃費・価格の両面で高い競争力を持つことから、EVへの移行は欧州や中国ほど急速には進んでいません。また、急速充電設備やマンションなど集合住宅での基礎充電環境の整備も今後の課題となっています。
さらに、企業にとってはEV導入だけでなく、再生可能エネルギーによる充電やV2H(Vehicle to Home)、V2G(Vehicle to Grid)など、電力システムとの連携も重要性を増しています。
車載電池の技術競争が市場を左右
EV市場では、自動車メーカーだけでなく、車載用蓄電池メーカーの競争も激化しています。
現在主流となっているのは、エネルギー密度が高い三元系リチウムイオン電池(NCM・NCA)と、安全性や価格競争力に優れるLFP(リン酸鉄リチウムイオン電池)です。近年はCATLやBYDを中心にLFPの採用が急速に拡大し、世界のEV用電池搭載量でも大きなシェアを占めるようになっています。
日本メーカーは次世代技術として全固体電池の開発を加速しています。トヨタは2027~2028年頃の実用化を目標としており、高いエネルギー密度、短時間充電、航続距離の大幅な向上が期待されています。一方、中国のCATLはナトリウムイオン電池の量産化を進めており、リチウム資源への依存を低減しながら、低価格EVや定置用蓄電池への展開を目指しています。
今後のEV競争は、自動車メーカーだけでなく、蓄電池メーカーの技術革新が競争力を左右する時代へと移行しつつあります。
ブーム終了ではなく、競争の主戦場が変化
IEAは2026年の世界EV販売が約2,300万台に達し、新車販売に占める割合は約28%になると予測しています。中国では6割近く、欧州では約3割がEVとなる見通しです。
一方、日本ではHEVが依然として高い競争力を持ち、自動車メーカー各社も市場や地域に応じてEV、HEV、PHEVを組み合わせるマルチパスウェイ戦略を進めています。しかし、中国メーカーが価格競争力と蓄電池技術を武器に東南アジアなど海外市場で存在感を高める中、日本メーカーにはBEVの商品力向上に加え、充電サービス、エネルギーマネジメント、再生可能エネルギーとの連携を含めた新たな競争力が求められています。
「EVブームは終わった」という見方は、日本や米国の一部市場を切り取ったものにすぎません。世界全体では市場は拡大を続けており、今後は自動車、蓄電池、電力システムが一体となった新たな産業競争が本格化していくと考えられます。
(参考)EVの定義
電気自動車(EV)の普及状況を比較する際には、対象となる車種の定義を理解することが重要です。本稿では、国際エネルギー機関(IEA)の統計に準拠し、バッテリーのみで走行するBEV(Battery Electric Vehicle)と、外部充電が可能なPHEV(Plug-in Hybrid Electric Vehicle)をEVとして扱います。一般的なハイブリッド車(HEV)はエンジン走行を主体とし外部充電機能を持たないため、この統計には含まれません。
EVは走行時にCO₂を排出しない一方、ライフサイクル全体では発電電源や蓄電池製造時の排出量も考慮する必要があります。そのため近年は、車両単体だけでなく、再生可能エネルギーによる充電や蓄電池のリサイクルまで含めた脱炭素化が重要なテーマとなっています。
【参考】IEA「Global EV Outlook 2026」
【参考】IEA「Trends in Electric Cars」
【参考】経済産業省「CEV補助金」
【参考】Wikipedia「電気自動車」