【経済】経済指標に見る「平均」の罠

【経済】経済指標に見る「平均」の罠

悲観する消費者、底堅い経済

いま米国では、一見すると矛盾する二つの経済指標が、景気判断を難しくしています。

一方では、ミシガン大学の消費者信頼感指数が長期的に見て低い水準にあります。多くの消費者は、食品、エネルギー、家賃などの物価上昇に苦しみ、将来の生活を悲観しています。

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しかし他方では、経済全体の数字は必ずしも悪くありません。2026年6月の消費者物価指数は前年同月比3.5%上昇し、失業率も4.2%にとどまりました。5月の個人消費支出も前月比0.7%増え、特にサービスへの支出が大きく伸びています。国民の実感は悪いのに、消費や雇用は底堅い。この乖離はなぜ生じるのでしょうか。(経済分析局)

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一人一票の心理と、金額で測る消費

原因の一つは、指標によって「平均」の取り方が異なることです。

消費者信頼感調査では、原則として富裕層も低所得層も一人の回答者として扱われます。いわば一人一票の多数決で、単純平均指標です。ですので大多数の家計が生活の苦しさを感じれば、指数は低下します。

これに対し、個人消費は一人当たりの満足度ではなく、実際に使われた金額を合計して測ります。一握りの富裕層が旅行、外食、娯楽、医療、高級住宅などに巨額の支出をすれば、多数の家計が倹約していても、消費全体は増加し得ます。こちらの指標は一人一票ではなく、消費量に応じた加重平均です。

つまり、意識調査では多数の不満が表面化する一方、経済統計では少数の大きな支出が全体を押し上げるのです。

胃袋は一つ、サービス消費には上限がない

財とサービスの違いも重要です。

富裕層であっても胃袋は一つしかありません。食品や日用品を一般家庭の何十倍も消費することはできません。そのため、家計の節約が広がれば、小売りや生活必需品を扱う業界は影響を受けます。単純平均的であり、多数決的です。

一方、旅行、ホテル、レストラン、娯楽、教育、医療、金融、家事支援といったサービスには、支出できる金額の上限がほとんどありません。資産を持つ人は、高額なサービスを何度でも購入できます。米国の個人消費では、2026年5月の増加額のうち、財への支出が618億ドルだったのに対し、サービスへの支出は943億ドルに達しました。(経済分析局)

こうしたサービス消費が雇用を支え、失業率を低い水準にとどめています。ただし、雇用情勢も一様ではありません。専門サービス、医療、社会福祉では雇用が増える一方、余暇・宿泊業では減少するなど、業種間のばらつきも広がっています。(Bureau of Labor Statistics)

資産価格と消費がつくる循環

さらに、富裕層の消費が景気を支えることで企業収益や株価が維持されれば、株式などの資産を持つ層は一段と豊かになります。その資産効果によって消費が増え、経済指標がさらに押し上げられるという循環が生まれます。

しかし、その景気の良さを平均的な国民が実感できるとは限りません。経済全体では消費が増え、雇用も維持されているのに、多数の家計は物価高に苦しみ、豊かさを感じられないという状況が起こります。

「平均的な国民」がいなくなる

これまでの経済分析は、分厚い中間層が所得を得て、その所得を消費に回すという社会を前提としてきました。そのような社会では、平均値は国民の暮らしをある程度正確に表していました。

しかし所得と資産の分布が大きく分かれれば、単純な平均や総額だけでは経済の実態を捉えられません。「平均的な国民」が豊かになったのではなく、一部の大きな支出が平均を引き上げている可能性があるからです。

問われているのは、米国経済が好調か不調かという二者択一ではありません。誰の消費が景気を支え、誰がその景気から取り残されているのか。経済指標を見る際には、平均値の背後にある所得階層、資産保有、消費項目の分布まで確認する必要があります。

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