80201000【気候変動と産業振興】ドイツ政府、重工業向け50億ユーロ支援を推進 脱炭素と産業競争力の両立へ

数値

ドイツ連邦経済・気候保護省は、2023年10月24日、産業政策文書「Industrial Policy in Changing Times」の発表を行いました。エネルギー価格高騰や米中との補助金競争を背景に、鉄鋼、化学、セメントなどの重工業を国内に維持しながら、2045年の気候中立達成を目指す方向性を示しています。

同文書では、再生可能エネルギー拡大、送電網整備、水素インフラ構築、産業電力価格対策などを一体的に進める必要性を提示。特にエネルギー多消費産業については、国際競争力維持のため国家支援が不可欠との考えを打ち出しました。

重工業向け差額契約制度を拡充

最近では、この方針に基づき、ドイツ政府が総額50億ユーロ規模の産業脱炭素支援を進めていることが注目されています。対象となるのはEU排出量取引制度(EU ETS)の対象工場で、グリーン水素活用、電化、CCS(CO2回収・貯留)、低炭素熱利用などへの転換投資が想定されます。

制度の中心は「気候保護差額契約(Climate Protection Contracts)」で、低炭素製法と従来製法のコスト差を最大15年間補填する仕組みです。一方、最近の制度見直しでは、初期段階の排出削減要件を緩和し、企業側により長い移行期間を認める方向も示されました。急激な規制強化による産業空洞化を避ける狙いがあるとしています。

脱炭素政策が「産業政策」へ転換

欧州では近年、脱炭素政策を単なる環境規制ではなく、経済安全保障や産業競争力と一体で設計する動きが強まっています。特に米国のIRA(インフレ抑制法)による巨額補助金や、中国の製造業支援策への対抗意識が背景にあります。

日本でもGX投資、水素、CCS、非化石電源、長期PPAなどの制度設計が進む中、産業政策と気候政策をどのように統合するかが重要テーマとなりつつあります。ドイツの動きは、脱炭素の「速度」だけでなく、産業基盤を維持しながら移行する現実的な政策設計が求められていることを示していると言えそうです。

出典:German Federal Ministry for Economic Affairs and Climate Action

ニュース記事一覧へ>>

image

公開された報告書「Avoided Emissions: Focus on the investment case」では、従来のScope1〜3排出量だけでは評価しきれない“社会全体の排出削減効果”を、企業価値や投資判断へ反映させる考え方が整理されています。

特に今回のレポートでは、「リアルオプション理論(Real Options Theory)」を用いた評価アプローチが提示されました。将来の脱炭素市場拡大や技術転換を踏まえ、現在時点での投資価値を柔軟に評価する考え方です。

“削減貢献量”とは何か

Avoided Emissions(削減貢献量)は、自社の製品・サービスが、社会全体のCO2排出削減へどれだけ貢献したかを示す概念です。

EV、再エネ設備、蓄電池、ヒートポンプ、高効率素材、電化ソリューションなどは、自社排出量自体は存在していても、社会全体では排出削減効果を持つ可能性があります。

従来のScope1〜3会計では、「自社が排出した量」を中心に評価されるため、こうした“社会的削減効果”が十分反映されないという問題がありました。

WBCSDは以前からAvoided Emissions算定方法論整備を進めており、今回のレポートでは、それを「投資判断へどう組み込むか」に焦点を当てています。

リアルオプション理論を活用

今回特徴的なのが、リアルオプション理論の導入です。

リアルオプション理論は、将来の不確実性を前提に、投資の“将来的な柔軟性や拡張可能性”を価値として評価する金融理論です。資源開発や製薬、インフラ投資などで活用されてきました。

WBCSDは、脱炭素技術投資でも同様の考え方が必要だと整理しています。

例えば、将来の炭素価格上昇、規制強化、再エネコスト低下、電化需要拡大、AI・データセンター電力需要増加などによって、現在は採算が見えにくい技術でも、将来的に大きな削減価値や収益価値を持つ可能性があります。

単純な短期ROIだけでなく、“将来の脱炭素市場オプション価値”を加味した投資評価が重要になるという考え方です。

Scope会計だけでは測れない価値

近年、GX投資では「排出削減コスト」だけでなく、「社会全体への削減寄与」が重要視され始めています。

特に、鉄鋼、セメント、化学、電力、輸送、データセンターなど排出多消費産業では、単純なScope削減だけでは技術革新を適切評価できないという議論が増えています。

例えば、蓄電池や送電網投資は、自社排出が一定存在しても、社会全体の再エネ導入を可能にする“削減貢献”を持ちます。

また、AIデータセンターでも、24/7 CFEやアワリーマッチング型電源調達によって、系統全体の低炭素化へ与える影響が議論され始めています。

WBCSDは、こうした「脱炭素移行インフラ」を長期投資として適切評価する必要性を示しています。

“排出量管理”から“削減価値競争”へ

現在の脱炭素市場は、「誰がどれだけ排出したか」を管理する段階から、「誰が社会全体の削減にどれだけ貢献したか」を競う段階へ移行し始めています。

欧州CBAMやISSB開示、移行計画(Transition Plan)開示などでも、企業の長期的脱炭素貢献が重視され始めています。

今後は、Avoided Emissions、アワリーマッチング、時間帯別環境価値、削減貢献量、Scope4などを含めた新たな評価軸が、投資市場へ本格導入される可能性があります。

今回のWBCSDレポートは、単なる環境報告ではなく、「脱炭素時代の資本配分理論」を提示したものとして注目されています。

出典:WBCSD Avoided Emissions: Focus on the investment case

ニュース記事一覧へ>>