[解説]電力・ガス基本政策小委員会:系統整備・立地誘導~2024中間とりまとめ案を読み込む

· 電力ニュースの深堀り,グリッド

電力・ガス基本政策小委員会の2024中間とりまとめ案から系統整備に関する事項を抜粋し、その将来像を分析します。

Section image

(2)電源の効率的な活用に向けた系統整備・立地誘導と柔軟な需給運用の仕組構築

① 電力システム改革における送配電分野の対応

Section image

東日本大震災後の需給ひっ迫時において、供給予備力の地域的偏在や、周波数変換設備(FC)、地域間連系線などの送電制約により、緊急時のバックアップ体制が不十分であることが露呈した。こうした課題を踏まえ、電力システム改革において、2015年に電力広域的運営推進機関(電力広域機関)を創設し、地域間の需給調整や連系線の増強を推進する体制を構築した。

これらの取組の結果、需給ひっ迫時の地域間融通や連系線・周波数変換設備の増強が進展している。電力の安定供給確保は大前提であり、一般送配電事業者は需要と供給を一致させる調整力を確保する重要な役割を担っている。これまで調整力公募や需給調整市場の開設を進めるとともに、暫定的なkW公募や予防的なkWh公募も実施してきた。

さらに、既存の送配電網を最大限活用する「日本版コネクト&マネージ」を推進し、2023年3月には電力広域機関が「広域系統長期方針(マスタープラン)」を策定した。現在、全国的な地域間連系線の整備が進められている。また、エリアを越えた一般送配電事業者間の連携も深まり、設備の仕様統一や災害時の連携計画に基づく復旧体制が構築されるなど、改革の成果が表れている。

② 再生可能エネルギーの効率的な活用を行うための広域及び地内系統整備の在り方

Section image

脱炭素社会の実現に向けて、送配電分野の更なる対応が重要である。特に再生可能エネルギーの導入拡大には系統増強が不可欠であり、マスタープランに基づき北海道・本州間の海底直流送電や関門連系線の整備検討を進め、資金調達等の課題に対応する制度的措置を検討している。 今後、再エネ導入や大規模需要の局地化が見込まれるため、マスタープランの見直しも検討していく。また、地内基幹系統の効率的な整備も重要である。これまでは各エリアの事業者が整備してきたが、広域取引に資するものは電力広域機関の関与の下で整備を進めることとした。今後、より効率的・計画的な整備の仕組みを検討するとともに、再エネ立地地域の負担と全国への裨益を踏まえ、エリアを越えた費用負担の仕組みも検討していく。

③ GX産業立地政策と連動した、大規模需要の立地誘導、送配電網整備の推進

Section image

データセンター等の高付加価値産業の維持や脱炭素化を促進するため、大規模需要に対し迅速な電力供給を行う必要がある。系統接続申込みの規律を確保し、早期供給が可能な場所を示す「ウェルカムゾーンマップ」による立地誘導を進める。

また、大規模需要を系統整備の適地に誘導するため、関係機関と連携して先行的・計画的な系統整備を促す仕組みを検討する。整備の推進と需要家の公平性を確保するため、費用の確実な回収の仕組みや、大規模な整備費用が発生した場合の費用負担の在り方についても検討を行う。

④ 送配電網の整備に係る資金調達等の課題への対応

Section image

送配電網整備には加速度的に巨額の投資が必要となる見込みである。レベニューキャップ制度下で費用回収の蓋然性が高くても、大規模投資は工期が長く回収に時間を要するため、キャッシュフロー悪化による投資停滞が懸念される。また、プロジェクトファイナンスにおいてもリスクを踏まえた融資の躊躇が起こり得る。

電力需要増や再エネ拡大、災害リスクへの対応として機動的な投資が重要であり、資金調達が制約となってはならない。このため、託送料金制度における費用回収の在り方や、量的確保のための仕組みなど、資金調達環境の整備を検討していく。

⑤ 短期の需給運用の効率的な実施

Section image

変動性再エネの導入により需給運用は難化しており、スポット市場の売り切れや需給調整市場の応札不足などの課題が生じている。今後は再エネの予測誤差拡大等により運用の更なる難化が予想され、次期中央給電指令所システムの整備が進められている。

こうした中、発電事業者の情報(起動費、最低出力費用、増分費用カーブ)に基づき、系統制約を考慮して供給力と調整力を同時に約定させる「同時市場」の導入を検討している。これにより、再エネの最大活用を前提とした最経済な電源配分(メリットオーダー)が実現され、需給予測の変化や緊急事態への対応力向上が期待される。これまで具体的な在り方の検討が行われてきたが、今後は価格算定方法や運営者の在り方等の論点について本格的に検討を深めていく。

⑥ 送配電部門の中立性・透明性向上

大手電力の不適切事案を受け、送配電部門の中立性・透明性の向上について議論が行われてきた。まずは内部統制の強化や外部監視の導入等の措置を講じたが、所有権分離については、現時点で必要性は認められないとの考えを整理した。

所有権分離に関しては意見が分かれているが、現在の環境変化として、脱炭素投資への資金調達の厳しさ、災害対応における電気事業者の高度な連携の重要性、ステークホルダーからの強い要望の欠如などが指摘されている。

適切な行為規制を通じて法的分離の下での中立性・透明性向上を図ることを前提に、現時点で制度的に所有権分離を求める必要はない。今後、事業者の取組状況を踏まえて必要性を継続的に検討し、仮に必要性が生じた場合には、所有権分離も選択肢としつつ具体的な対応策を検討していく。