【速報】分散型エネルギー推進戦略ワーキンググループ(12/19)で何が議論されたか? DRと蓄電池 (1)岩船委員発言要旨を解説(DS構造研究所:酒井直樹)

· 電力脱炭素,分散型エネルギー推進戦略ワーキンググループ,DR,蓄電池,アグリゲーション

25年12月19日に総合資源エネルギー調査会・省エネルギー小委員会/再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会/次世代電力・ガス事業基盤構築小委員会 分散型エネルギー推進戦略WG(第1回)が開催されました。

この会合では、再生可能エネルギーの導入拡大に伴う電力システムの安定化とトータルコストの抑制を目的として、特に蓄電池やデマンドレスポンスといった分散型エネルギーリソース(DER)の活用策が議論されました。

事務局からは、需要側と供給側それぞれの現状と課題や、特にサイバーセキュリティの確保や投資の予見性を高めるための施策の方向性が示されました。

専門家である委員やオブザーバーからは、市場価格との連動、海外動向を踏まえた技術規格、および実効性のあるインセンティブ設計の重要性について多角的な提言がなされました。

最終的に本会合は、エネルギー基本計画に基づき、持続可能な分散型エネルギー社会の実現に向けた政策の整理と具体化を目指す出発点として極めて重要な論点が出されました。

そこで、何回かにわけて、主要委員のご発言の趣旨(筆者の解釈)と、筆者の考えを述べたいと思います。第一回は岩船由美子委員(東京大学生産技術研究所教授)です。

船委員について(AIにより生成)

岩船教授は、電力システムやエネルギー需給分析に造詣が深く、再生可能エネルギーの大量導入や電力市場改革が進む中で、需要側資源(DR)や分散型エネルギーが果たす役割に早くから注目し、理論と実証の両面から研究を重ねてこられました。

電気料金や市場制度、需要家行動といった「制度と現場の接点」を丁寧に捉える視点が特徴で、学術研究にとどまらず、政府の審議会や検討会にも数多く参画されています。現実の制度制約や実装可能性を踏まえつつ、分かりやすく本質を突く発言は、政策議論の場においても強い存在感を放っています。

発言要旨

以下岩船先生のご発言の要点の筆者による解釈とを記します。(文責:筆者。正確な発言内容は是非Youtube配信でご確認ください。)

総論

系統用蓄電池が近年大量導入されている中で、需要側のDRが あまり活躍できない懸念もる。系統用と需要用DRリソースのバランスが重要

低圧DR

需要側リソースの活用は今のところなかなか難しい。活用にはインセンティブ付与がある。

技術面でも、次世代スマートメーター活用で安く実装できるならばそれでもよいが、メーカーの機器をAPIで接続してメーカー側で直接制御する手法が必ずしも割高とはならないのではないか。英国オクトパスエナジーは既に実装事例がある。HEMSの家庭全戸設置に比しても、割安になる可能性がある。

系統蓄電池の需給調整市場での落札量が急増し、上限価格の引き下げや枠の縮小等の対策がなされている現下の状況において、低圧リソースの実装はなかなか難しい状況にある。

低圧リソースの出口は必ずしも調整力市場だけではないとは思うが、各事業者が真剣にその道を模索してきている中で、やはり調整力として価値を化体化する方策を検討すべきではないか。

メーカー直接制御など、技術的にも、費用対効果の面でも有望な環境が整いつつあるなかで、一般家庭に対しては、やはり料金メニューでインセンティブ付与を図っていくべきではないか。

そのためには、市場連動型料金の主流化も検討項目となる。一部に、昼に安い電気料金メニューの導入などの取り組みがされてはいるが、インセンティブを付与するのに十分な値差がつかないことが多い。顧客数が膨大で、レガシーシステムを使わざるを得ない大手事業者が、導入するのはなかなか難しい一方で、700を超える小売電気事業者全体への浸透も難しいと承知はしている。

一方で、海外では、ダイナミック・プライシングなどの例もある。「低圧リソースの活用を社会実装するためには金銭的インセンティブを付与するに十分な電気料金メニューのフレキシブル化(・ダイナミック化)」も議論を深めるべき。

業務用需要家DR

オンサイト太陽光発電システムを保有する需要家のDRだが、低圧家庭用では発電量が消費量を超過する時間帯が多いため、(買電料金>売電料金の場合)自家消費を増やすため蓄電池を設置しようという動機付けがあるが、業務用需要家の場合は、最大需要を下回るPV設備容量が導入されている場合が多い。このため、オンサイトへの蓄電池の導入インセンティブが強くないのが課題となる。

そこで、業務用需要家にもインセンティブを付与できるような値差の生じる電気料金料金メニューの整備がやはり重要なのではないか。

DRリソース・データの整備

DRリソースに関して、需要家構内のどこに何が入ってるかっていう情報がないのは大きな問題。エコキュートがどんなエリアどれぐらいあるか、どのような契約となっているか、それらは制御可能な状況かなどの情報を把握できていないのではないか。

まずはデータを収集し、そのうえでどういう策を講じていくかを検討するという、ステップワイズな議論をお願いしたい。

系統用蓄電池

系統用蓄電池のコストダウンが進み、導入が急速かつ大量に進む中で、申し込みが急増して混乱を招くような事態がある現下の状況で、これ以上補助金の支給が必要なのかという気もする。

現在は、調整力としての活用が進むが、一方で、やはりアービトラージ(値差での裁定)取引での活用が本丸ではないかと思う。そのためには、スポット市場での一定のボラティリティを許容するなどアービトラージでの活用が進む方策も検討すべきである。

さらに、そのことで系統運用をなるべく容易にできるような視点も重要である。

同時市場の導入を待ってという考えもあるかもしれないが、米国カリフォルニア州では大量導入された蓄電池がアービトラージを経て系統の安定化に貢献しているという話もある。こうした海外の好事例を分析するなどして、我が国の政策に反映させていくべきではないか。

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