経済産業省と国土交通省が2026年7月14日に開催した、洋上風力促進ワーキンググループと洋上風力促進小委員会の第44回合同会議について解説します。
第1回では、洋上風力を取り巻く国内外の環境変化と、日本・欧州の政策的位置づけを取り上げました。第2回は、洋上風力の事業コストを押し上げている物価、円安、金利、建設工事費、送変電設備価格を分析します。
資本費に対応する物価は約19%上昇
洋上風力は、風車、基礎、海底ケーブル、施工などに巨額の初期投資を必要とします。事務局は、物価、為替、金利の変動が大きく、事業コストの見通しを立てにくい状況にあると説明しました。
着床式洋上風力の資本費は、風車が55%、施工が32%、基礎が6%、アレイケーブルとエクスポートケーブルが5%を占めます。風車と施工だけで全体の87%に達するため、風車価格と工事費の変化が事業費を大きく左右します。
第3ラウンド公募が始まった2024年1月の直近1年間、すなわち2023年1~12月の平均を基準にすると、風車、施工、基礎、ケーブルの構成比を反映した物価変動率は、2026年3月までに約19%上昇しました。
これは、鉄鋼、産業用電気機器、建設工事費、労務費、重油、電力・通信用メタルケーブルなど、洋上風力の資本費に直接関係する指数を組み合わせた数値です。
円安と金利上昇が事業採算を圧迫
為替については、2024年1月から2026年5月までに、ドル・円が約9%、ユーロ・円が約16%上昇しました。
日本には現在、大型風車メーカーが存在せず、ナセル、ブレード、発電機などの主要構成機器を欧州メーカーからの輸入に依存しています。このため円安は、国内の物価指数に表れる上昇以上に、風車の調達費を押し上げる可能性があります。
同じ期間に、長期金利の指標となる20年国債金利は約150%上昇しました。多額の借入れを伴う洋上風力では、金利上昇がプロジェクトファイナンスの調達費用を増やし、発電事業者が採算を確保するために必要な売電単価にも影響します。
資材価格が変わらなくても、借入金利や割引率が上昇すれば、事業収支と投資回収期間は悪化します。発電事業者には、金融機関との融資条件や自己資本比率、将来の借り換えリスクを含めた収支の再検証が必要になります。
工事費9%、送電ケーブル67%上昇
資本費の32%を占める施工分野でも、資材価格と労務費の上昇が続いています。洋上・陸上工事に関係する建設分野の物価は、2024年1月から2026年3月までに約9%上昇しました。
さらに、再エネの導入拡大、電力インフラの老朽化更新、デジタル化に伴う電力需要増加を背景として、送変電設備の需要が世界的に拡大しています。設備需要の集中に加え、原材料となる銅価格も上昇しており、国内の送電ケーブル価格は同期間に約67%上昇しました。
変圧器・計器用変成器についても価格上昇が確認されています。発電所本体だけでなく、海底ケーブル、陸上送電線、変電設備、系統接続工事まで含めて費用が膨らんでいる点が、現在の洋上風力事業の特徴です。
EPC事業者や機器メーカーには、調達先、納期、為替条件、価格改定条項の精査が求められます。発電事業者も、固定価格のEPC契約だけではコスト変動リスクを吸収できない場合があり、契約当事者間でのリスク分担を見直す必要があります。
現在の発電コストは30円前後
発電コスト検証ワーキンググループは、2023年に新設する着床式洋上風力の発電コストについて、政策経費を含む場合は30.9円/kWh、政策経費を除く場合は21.1円/kWhと試算しました。
一方、2040年に新設する設備については、風車の大型化、技術習熟、サプライチェーン形成などによるコスト低下を前提に、政策経費込みで13.5~14.3円/kWh、政策経費を除く場合で9.5~10.1円/kWhと見込んでいます。
日本風力発電協会も、一般海域の着床式・モノパイル方式5案件を対象とした事業者アンケートに基づき、現在の事業コストは平均で30円/kWh台半ばになると説明しました。この試算には、陸上送電線の調達・敷設費用、系統費用のほか、P-IRR6%を確保するための利潤も含まれます。
欧州と同じコスト低減が進むか
事業者ヒアリングを踏まえ、委員からは、日本でも欧州と同じような習熟効果が働き、2040年に向けてコストを下げられるのか慎重に確認すべきだとの指摘が出ました。
欧州は風車の大型化と大量導入、国境を越えたサプライチェーンを通じてコストを低下させてきました。しかし、日本では風況、海底地盤、自営送電線の距離などが海域ごとに異なり、同じ低減経路をそのまま想定できるとは限りません。
業界からは、こうした海域ごとの条件を踏まえて上限価格を設定してほしいとの要望も示されています。一方、委員からは、条件が悪くコストが高い海域を早期に開発することは、国民負担との関係から慎重に判断すべきだとの意見が出ました。
物価、為替、金利、工事費の上昇によって洋上風力の採算環境が厳しくなるなか、案件形成を継続しながら国民負担をどこまで許容するかが次の論点になります。第3回では、これらのコスト分析を踏まえて示された「30円/kWh程度」という案件形成の目安と、今後の政策方針を解説します。
(続く)
出典