PPAが呼び戻す過去の課題
沖縄電力は、太陽光PPA「かりーるーふ」でオンサイト再エネの拡大を進めています。
同サービスでは、沖縄新エネ開発が住宅などに太陽光発電設備と蓄電池を設置し、15年間にわたり保守を含めて運用します。
同社は2040年までに再エネ導入量を2019年度比10万kW増やし、蓄電池や系統安定化技術も高度化するとしています。
東京電力エナジーパートナーも家庭向けに「エネカリプラス」を展開しています。スターツとの集合住宅向け事業では、1戸当たり約2kWの太陽光発電設備を設置し、年間1,000戸程度の導入を目標に掲げました。
評価は分かれますが、旧一般電気事業者自身がオンサイト再エネ・蓄電池事業で存在感を強めていることは注目されます。
独占時代に進められた「営配一体運用」
旧一般電気事業者による低圧PPAの拡大は、約40年前から東京電力が進めていた「営配一体運用」を想起させます。
当時、営業と呼ばれた小売部門と配電部門の社員は、供給区域内の100を超える地域事業所で働いていました。しかし、同じ事業所に勤務しながら、部門間の情報共有は必ずしも十分ではありませんでした。
こうした中、東京電力は地域独占への批判を背景に顧客志向を打ち出し、営業拠点に技術サービス要員を配置しました。本格的な停電・事故対応を担う配電部門とのコミュニケーションを強化し、顧客対応と設備運用を結び付ける取り組みです。
1987年のCI導入に続き、1988年には社員から募った572編の歌詞から選ばれた「Song for Your Energies」を松任谷由実さんが作曲するなど、企業文化の改革も進められました。
法的分離後に広がった情報の溝
その後、電気事業を取り巻く環境は一変します。
2016年の小売全面自由化と2020年の送配電部門の法的分離により、一般送配電事業者には、すべての小売・発電事業者を公平に扱う中立性が求められるようになりました。
一般送配電事業者が保有する非公開情報へのグループ内アクセスなども問題となり、アクセス権限の管理や情報遮断を厳格化する流れが強まっています。
一方、日本では再エネの導入が進み、大規模電源を巡る環境・地域共生上の課題も顕在化しました。政府は、自家消費型太陽光や需給近接型の分散型エネルギーシステムも推進しています。
その結果、需要家側では低圧・高圧を問わず、太陽光、蓄電池、EV、エコキュートなどの分散型エネルギー資源(DER)が増加しています。これは脱炭素化に寄与する一方、配電系統の管理を複雑にする要因にもなります。
配電系統は設備が面的に広がり、電線亘長も長いうえ、上位系統に比べて潮流・電圧の計測点が限られます。受電点の正味潮流だけでは、太陽光の総発電量、蓄電池の充電率(SOC)、充放電計画、制御可能量を把握しにくく、逆潮流や電圧上昇、需要予測誤差への対応が難しくなります。
PPA事業者だけが詳細な機器データを持つ状態が続けば、オンサイト電源が系統運用上のブラックボックスとなる可能性があります。
英国:小規模DERの半数以上が未登録
この問題は日本に限られません。英国では「分散型エネルギー資産の可視性(asset visibility)」という言葉で、ほぼ同じ課題が議論されています。
英国政府は2025年、小規模太陽光、家庭用蓄電池、EV充電器、ヒートポンプなどについて、DNOへの登録率が半数未満と推定され、発電・消費プロファイルなどの運用データへのアクセスも限られていると指摘しました。
英国では2030年までに、スマート充電に対応するEVが1,000万台、ヒートポンプが320万台、家庭・業務用太陽光が最大42GWに達するとのシナリオがあります。これらの設備を把握できなければ、低圧系統の需要予測、電圧管理、設備増強計画、柔軟性市場の運営が難しくなります。
英国では小売事業者とDNOが制度的に分離されているため、旧来型の「営配一体」へ戻す議論ではありません。代わりにDNOを、接続と設備保守を中心とする事業者から、地域の潮流や柔軟性を能動的に管理するDSOへ移行させています。
具体策の一つが、Elexonを中立的なMarket Facilitatorに指定し、太陽光、蓄電池、EV、ヒートポンプなどを共通登録する「Flexibility Market Asset Registration(FMAR)」を整備する計画です。
FMARは1MW未満を対象とし、当初は50kW未満の小規模設備に重点を置きます。同じ設備を複数の柔軟性市場へ重複登録する負担を軽減し、設備情報を一度登録したうえで、DNO、NESO、アグリゲーターなど権限を持つ関係者が利用できる「単一の情報源」を目指しています。
米国:配電事業者とアグリゲーターの協調が焦点
米国でも、送電系統や変電所に比べ、配電用変電所より下位のネットワーク、特に需要家メーターの背後にある太陽光や蓄電池の可視性が低いことが課題となっています。
ただし米国では、発電・小売・配電を統合した州規制の公益事業者と、自由化された地域が混在しています。このため議論の中心は営業と配電の再統合ではなく、連邦管轄のRTO・ISO、州管轄の配電事業者、DERアグリゲーター、州規制当局の間で、情報と制御権限をどう調整するかにあります。
FERC Order No.2222は、太陽光、蓄電池、EV、DRなどを束ねたDERアグリゲーションの卸電力市場への参加を認めました。RTO・ISOが設定する最低規模は100kWを超えてはならず、設備の所在地、計量、テレメトリー、データ要件、配電事業者による系統影響確認についてもルール化を求めています。
需要家側DERが小売事業者のDRプログラムと卸市場の双方へ参加する場合には、同じサービスへの二重報酬を防ぐ必要があります。一方で、配電事業者による接続・運用審査が過度な参入障壁にならないようにすることも重要です。
実装時期は地域によって異なります。CAISOは2024年11月に対応を完了しましたが、NYISOは2026年末、PJM、MISO、SPPでは2027~2030年にかけて段階的に導入される見通しです。計量責任、テレメトリー費用、配電事業者の審査期間、アグリゲーターとのデータ連携が実装上の論点となっています。
カリフォルニア州では、配電線ごとのDER受入余力を示すIntegration Capacity Analysis(ICA)、将来の設備制約を示すGrid Needs Assessment(GNA)などをデータポータルで公開しています。需要家側の設備情報を配電事業者へ渡すだけでなく、配電事業者が持つ系統情報も開示する双方向性が特徴です。
英米と日本に共通する課題
英国、米国、日本では、電気事業の分離形態や規制権限が異なります。それでも、問題の構造には共通点があります。
第1は、オンサイト太陽光、蓄電池、EVなどの設置が先行し、配電事業者が設備の所在地、容量、運転状態、制御主体を十分に把握できていないことです。
第2は、PPA事業者、メーカー、アグリゲーター、小売事業者が持つ需要家側の情報と、配電事業者が持つ潮流、電圧、混雑などの系統情報が、制度・契約・システム上分断されている点です。
第3は、競争中立性や個人情報保護を守るためのファイアウォールが不可欠である一方、必要な情報共有まで抑制すれば、系統運用や設備形成が非効率になり得ることです。
海外で進んでいる議論は、決して営業と配電の組織的な再統合という自由化への逆行ではありません。
設備登録、標準API、系統制約情報、地域柔軟性市場、アグリゲーター制御を接続する「機能的な統合」です。日本でいう「営配一体運用」も、現代的には「配電・需要家側リソース協調」として再定義する必要があります。
組織ではなく「機能」を再統合する
かつての垂直統合型組織へ戻ることは、現時点で現実的な選択肢ではありません。必要なのは、ファイアウォールを維持しながら、営業・PPA事業者が持つ需要家設備の情報と、配電事業者が持つ系統制約情報を中立的に連携させる「機能としての営配一体運用」ではないでしょうか。
例えば、需要家の同意と適切なデータガバナンスを前提に、設備容量、所在地、所有者、制御主体などの静的情報を共通登録する仕組みが考えられます。さらに発電量、SOC、充放電予定、DR可能量、無効電力などの動的情報を、利用目的と権限に応じて標準APIで連携する必要があります。
配電事業者からは、系統混雑、電圧、接続可能量、出力制御の必要量などを標準化された方式で提供し、アグリゲーターによるDR・蓄電池制御と接続させることが重要です。英国のFMARや米国のICAは、この双方向型データ連携を具体化する参考事例になります。
ただし、自社グループの小売・PPA部門だけが有利になる仕組みは避けなければなりません。競合する小売、PPA事業者、アグリゲーターにも同一条件でアクセスを認め、アクセスログ、目的外利用の禁止、サイバーセキュリティ、第三者監査を制度に組み込む必要があります。
データ基盤の運営主体についても、一般送配電事業者、電力広域的運営推進機関、あるいは独立した市場運営機関など複数の選択肢が考えられます。設備登録を一元化しながら、個別の運用データは必要な主体だけに開示する階層的な設計が現実的です。
同時に、系統運用、顧客設備、DR市場、データ管理、サイバーセキュリティを横断的に理解する人材の育成も欠かせません。かつての営配一体運用が現場のコミュニケーションによって機能したように、デジタル化後も制度とシステムだけでなく、異なる部門や事業者の業務を理解できる人材が必要になります。
沖縄電力の取り組みは、旧一般電気事業者が蓄積してきた顧客設備と配電系統に関する知見を、公正な競争と分散型系統運用の両立に生かせるかを問う事例です。ファイアウォールを弱めるのではなく、その内外を安全かつ非差別的につなぐ仕組みを整えることが、現代における「営配一体運用」の姿と考えます。
出典
資源エネルギー庁「エネルギー白書2025・電力システム改革の推進」