中国・清華大学の郭雅欽氏、劉燕氏、童丹氏、張強氏、米カリフォルニア大学アーバイン校のスティーブン・J・デイビス氏、米航空宇宙局(NASA)のフェイ・リウ氏らの国際研究チームは、世界の石炭火力発電設備による水銀排出量を設備単位で分析した論文を発表しました。論文は2026年7月24日、学術誌Nature Communicationsに掲載されました。
排出量が著しく集中する「スーパーエミッター」
水銀は生物濃縮性、長距離移動性、毒性、環境残留性を有し、2013年採択の水俣条約でも規制対象とされている物質です。研究チームは1990年から2020年までの設備単位の水銀排出インベントリを構築し、各国内で水銀排出原単位が高い順に並べた際に総排出量の上位10%を占める設備を「スーパーエミッター」と定義しました。分析の結果、こうした高排出設備は2020年時点で新興国に集中しており、排出量報道によれば、その9割超がインドの設備に集中していたとされています。
短期はスーパーエミッターの廃止、長期は専用技術が鍵
研究チームは、脱硫・脱硝・煤塵除去等の大気汚染防止設備の高度化と、スーパーエミッターの優先的な廃止を組み合わせることで、特に大規模な石炭火力設備群を抱える国々において、近い将来に費用対効果の高い排出削減が可能になると分析しました。一方、長期的かつ大幅な削減には、活性炭注入(ACI)など水銀専用の除去技術の導入が必要になるとしています。米国や欧州では1990年から2020年にかけて設備廃止と排ガス処理の高度化が進み、排出量が大きく減少した一方、インドをはじめとするアジア地域では新設された大型設備からの排出も増加したと報告されています。研究チームは、各国の実情に応じた段階的な削減戦略の構築が必要だと結論付けています。報道によれば、既存設備を各地域で利用可能な最良技術(BAT)に更新した場合、インドでは2020年から2060年までの累積水銀排出量を、気温上昇を2℃未満に抑えるSSP1-2.6シナリオで68.2%削減できると推計されており、同国の石炭火力設備の8割以上が現時点でBATを導入していないことが背景にあるとされています。
出典:Unit-level assessment of mitigation pathways for mercury emissions from the global coal power fleet