政府は、2026年1月16日、2025年度から2030年度までを対象とする「第3次交通政策基本計画」を閣議決定しました。交通政策基本法に基づく政府の基本計画で、人口減少を需要の縮小だけでなく、交通事業の連携、デジタル化、自動化を進める契機と捉え直しています。
策定作業は、2024年4月25日の交通政策審議会・社会資本整備審議会への諮問から始まりました。合同計画部会を7回、持続可能な社会の実現に向けた交通政策検討小委員会を4回開催し、2025年10月31日から11月21日までの意見公募では33の団体・個人から62件の意見が寄せられました。2026年1月8日の答申を経て、同月16日に閣議決定されています。
計画は、A「地域社会を支える、地域課題に適応した交通」、B「成長型経済を支える交通ネットワーク・システム」、C「持続可能で安全・安心な社会を支える強くしなやかな交通基盤」、D「デジタル・新技術を活かした交通サービスの進化」の4方針と11目標で構成されています。
自動運転サービス車両を11台から1万台へ
計画は、自動運転サービス車両数を2025年度の11台から2030年度に1万台へ増やす目標を掲げました。2027年度に見込まれる自動運転タクシーと自動運転トラックの社会実装を視野に、実証実験中心の段階から、継続的に料金収入を得る事業化段階へ移行させます。
ただし、1万台は政策上の普及目標であり、全車両が同一の自動運転レベル、走行条件、運行形態になることを意味しません。事業化には、運行設計領域、道路環境、気象条件、遠隔監視、緊急時対応などを地域ごとに定め、安全性と採算性を両立させる必要があります。
「1対N」で初めて人手不足対策になる
政府が重点を置くのが、1人の遠隔監視者が複数の自動運転車両を管理する「1対N型」です。運転席に人を置かず、遠隔拠点に同数の監視員を配置するだけでは、人手不足の解消や生産性向上につながりにくいためです。
計画は、輸送力の大きい自動運転大型バス、面的に運行できる自動運転タクシー、1対N型のサービスへ支援を重点化します。利用者が少ない小型車両の実証を各地で繰り返す方式から、一定の輸送量と労働生産性を確保できる案件を優先する方針です。
事業者には、車両だけでなく、遠隔監視センター、通信回線、運行管理システム、車内監視、利用者対応、緊急停止、代替輸送を一体で構築することが求められます。通信費、保険料、保守費、遠隔監視要員を含めた1台当たり運行原価が事業性を左右します。
運行管理、補償、事故調査の制度を整備
制度面では、1対N型を前提とした管理受委託の適用範囲と運行管理要件を明確化します。自動運転車による事故時の補償制度、運輸安全委員会による事故原因究明体制も整備する方針です。
自動運転では、車両メーカー、システム開発会社、地図・通信事業者、運行事業者、遠隔監視受託者、道路管理者が関係します。事故時にどの主体がどの範囲を負担するかが不明確なままでは、保険設計やプロジェクトファイナンスが難しくなります。責任分担の明確化は、技術開発と同様に市場形成の前提です。
道路側では、交差点センサー、合流支援、先読み情報などの路車協調システムを整備し、自動運転車の走行空間に関する基準を策定します。車両単体の性能だけでなく、道路インフラと通信を含むシステムとして安全性を高める考えです。
自治体は運行地域と公共負担を設計
自動運転は「交通空白」の解消策として位置付けられていますが、車両を導入するだけでは運行を継続できません。自治体には、対象地域、停留所、運賃、運行時間、既存バス・タクシーとの役割分担、緊急時対応、公的負担を地域公共交通計画へ位置付ける役割があります。
民間側には、自動運転車両、センサー、遠隔監視、地図、通信、サイバーセキュリティ、保険、整備、充電設備など幅広い事業機会があります。特に複数地域の運行を一つの遠隔拠点から管理できれば、規模の経済が働く可能性があります。
一方、投資家は車両台数だけでなく、1人当たり監視台数、運行可能時間、介入頻度、稼働率、自治体契約期間、補助終了後の負担構造を確認する必要があります。第3次計画が示した1万台目標を事業市場へ変える鍵は、技術的な無人化ではなく、安全規制と運行採算を両立させた標準モデルの構築です。