政府は、2026年1月16日、2025年度から2030年度までを対象とする「第3次交通政策基本計画」を閣議決定しました。交通政策基本法に基づく政府の基本計画で、人口減少を需要の縮小だけでなく、交通事業の連携、デジタル化、自動化を進める契機と捉え直しています。
策定作業は、2024年4月25日の交通政策審議会・社会資本整備審議会への諮問から始まりました。合同計画部会を7回、持続可能な社会の実現に向けた交通政策検討小委員会を4回開催し、2025年10月31日から11月21日までの意見公募では33の団体・個人から62件の意見が寄せられました。2026年1月8日の答申を経て、同月16日に閣議決定されています。
計画は、A「地域社会を支える、地域課題に適応した交通」、B「成長型経済を支える交通ネットワーク・システム」、C「持続可能で安全・安心な社会を支える強くしなやかな交通基盤」、D「デジタル・新技術を活かした交通サービスの進化」の4方針と11目標で構成されています。
ローカル鉄道は維持か廃止かではなく「再構築」
地域鉄道では、人口減少、沿線人口の高齢化、運転士・保守人材の不足、設備更新費の増大が同時に進んでいます。計画は、従来の赤字補填だけでなく、2023年改正地域交通法の枠組みを使い、鉄道の存続、上下分離、運行形態の変更、BRTや自動運転車への転換を含めて地域交通全体を再構築する方針です。
BRTや自動運転などへの転換を含む鉄道再構築件数は、2024年度の19件から2030年度に37件へ増やします。自治体には、鉄道事業者だけでなく、利用者、沿線企業、学校、医療機関、観光事業者を交え、どの輸送モードが地域便益を最大化するかを地域公共交通計画で示す役割が求められます。
事業者・投資家にとって重要なのは、「鉄道維持」が一律の政策目標ではない点です。設備保有主体の公的部門への移行、第三セクター化、BRT転換、駅周辺開発との一体運営など、案件ごとに事業構造が変わります。沿線自治体の財政負担能力、運行赤字の補填期間、車両・インフラ更新費の分担を確認する必要があります。
都市鉄道は加算運賃と受益者負担を活用
都市鉄道では、対象事業を利用者の利便性向上に直接つながる改良へ拡大し、供用開始前から整備費用を収受できる新たな加算運賃制度の活用を促します。利用者だけでなく、鉄道整備によって価値が上昇する沿線不動産、商業施設、都市開発事業者など、幅広い受益者による費用負担も検討します。
駅についても、単なる乗降施設ではなく、都市機能と交通結節機能を併せ持つ拠点へ転換します。都市開発事業者、鉄道事業者、自治体が連携し、駅の総合改良、駅前広場、自由通路、商業・業務施設、バス・タクシーとの乗換機能を一体的に整備する方針です。鉄道会社にとっては運輸収入だけでなく、不動産、商業、広告、データサービスを組み合わせる余地が広がります。
自動運転、CBM、部品標準化を支援
人手不足を背景に、鉄道運転の自動化、遠隔監視、状態基準保全(CBM)を推進します。CBMは、一定期間ごとに部品を交換する方式から、センサーで設備状態を把握し、必要な時期に保全する方式への転換です。国は技術開発支援と技術基準の整備を進め、事業者間で部品・装置を標準化し、共同調達や保守業務の共同化を促します。
省力化・効率化に取り組む中小鉄軌道事業者の割合は、工務部門で2024年度の33%から2029年度に50%、電気部門で23%から45%へ引き上げます。採用面では、鉄道会社と国・自治体による共同採用、特定技能外国人や退職自衛官の活用、人材育成を進めるとしています。
防災投資では、豪雨時に流失・傾斜のおそれがある鉄道河川橋梁約380橋の対策完了率を35%から80%、鉄道隣接斜面約2,400カ所を29%から66%、地下駅・電気設備約1,000カ所の浸水対策を38%から74%へ高めます。ホームドアは2,647番線から4,000番線、プラットホームと車両の段差・隙間を縮小した番線も2,169番線から4,000番線へ増やします。
投資判断は公的負担と運賃回収の確認が不可欠
鉄道分野では、駅改良、CBM、遠隔監視、ホームドア、防災設備、部品標準化、BRT転換に継続的な投資需要が生じます。一方、計画に掲載されたKPIは予算措置や収益を保証するものではありません。
投資家は、補助率、自治体負担、運賃改定の認可、加算運賃の回収期間、沿線開発利益の還元方法、災害復旧費の分担を個別に見る必要があります。第3次計画は、鉄道政策を「路線の存廃」から「地域全体で費用と便益を配分する事業再編」へ移す方向を明確にしたと評価できます。