資源エネルギー庁は、2026年8月10日、第12回ガス事業環境整備ワーキンググループを開催しました。2017年の小売全面自由化と2022年の導管部門の法的分離を検証し、「ガスシステム改革の検証結果と今後の方向性(案)」を審議しました。
会合では、ガス事業者の供給計画・製造計画を原則3年間から一律5年間へ延長し、主要12事業者のLNG調達・在庫を原則2週間に1回調査する案や、託送料金へ物価・賃金の変動見込みを反映する制度改正などを了承しました。委員の指摘を踏まえた文言修正は山内弘隆座長に一任し、パブリックコメントの手続きへ進むことも確認しました。
供給計画は3年から5年、LNG在庫を隔週把握
事務局は、ガスシステム改革によって小売、製造、導管の事業類型が分かれた一方、地域全体の需要や供給インフラを一体的に見通す必要性は変わらないと説明しました。人口減少や地方の需要減少、データセンターなどの新規需要、合成メタンの導入を踏まえ、供給計画・製造計画の対象期間を原則3年間から5年間へ延長します。
ガス小売事業者と一般ガス導管事業者の計画には、合成メタン、バイオガス、水素の需給見通し、大型需要家数、スマートメーター取付数を追加します。都市ガスの換算熱量も、実態に合わせて46MJ/㎥から45MJ/㎥へ変更します。一方、主にLPガスを使うコミュニティーガス事業者については、都市ガス事業者と様式を分け、項目と枚数を削減します。
さらに、東京ガス、大阪ガス、東邦ガス、西部ガス、北海道ガス、静岡ガス、広島ガス、日本ガス、仙台市ガス局、INPEX JAPAN、石油資源開発、ENEOS Xploraの12事業者を対象に、LNGの調達計画と受入・払出・在庫予定量を、非公開を前提として原則2週間に1回調査します。中東情勢などに応じて調査頻度を見直します。
都市ガス向けLNGの長期契約比率は約9割を維持し、現時点で大きな供給支障は確認されていません。ただし、海外調達への依存度が高く、地政学リスクが短期間で変化するため、年次の供給計画とは別に足元の在庫を継続把握する仕組みを設けます。
託送料金に物価・賃金上昇を反映
一般ガス導管事業の託送料金は、現在の総括原価方式を維持します。その上で、将来の消費者物価や雇用者所得などの変動見込みを原価へ織り込む「エスカレーション」を導入します。
採用する指標は、一般費用が消費者物価指数、人件費が賃金構造基本統計調査、工事関係費が建設工事費デフレーターです。過大な変動率を算入しないよう、直近5年間の最大値と最小値を除いた3年間の平均値を使います。労務費、修繕費、消耗品費などを対象とする一方、合成メタン等調達費相当金、事業者間精算費、既存資産の減価償却費には変動率を織り込みません。水道料と占用料は変分改定の対象に追加します。
事業報酬の算定式と自己資本・他人資本比率35対65は維持します。他人資本報酬率は、大手3社の平均有利子負債利子率から、公社債利回りにリスクプレミアムを加える方式へ変更します。算定データの採録期間も7年間から5年間へ短縮します。ただし、急激な変更を避けるため、2026年度の事業報酬率には現行方式を適用します。
事業者間精算料金の改定を託送料金へ早期に反映できるよう、導管事業者間の事前協議を指針に明記します。変分改定の標準処理期間は、現行の4カ月から2カ月へ短縮します。
合成メタン1%目標、オンサイト型の規制緩和へ
脱炭素化では、石炭・重油などから天然ガスへの燃料転換を当面の低炭素化策と位置付けました。日本ガス協会などの試算による燃料転換の潜在需要は、地方を中心に年間32億~95億㎥です。産業団地やデータセンターでは、コージェネレーションを活用し、電力系統の接続制約を補完する可能性も示されました。
その先では、天然ガス、カーボンオフセットガス、合成メタン、バイオガス、水素を組み合わせます。2030年度に合成メタン等を都市ガス供給量の1%とする目標に向け、海外調達時の要件や環境価値の表示方法を整備します。
オンサイトメタネーションなどについては、安全性と需要家保護を確保した上で事業規制を緩和します。合成メタン等の販売では、環境価値の表示に関する望ましい行為と問題となる行為を「ガスの小売営業に関する指針」へ明記します。証書制度の実証・設計も進めます。
また、2050年に都市ガスの標準熱量を40MJ/㎥へ引き下げるとした2021年度の結論は、合成メタン等の導入見通しが50~90%と幅を持つことから、技術、保安、需要家への影響を有識者が改めて検証します。
小売価格とLNG基地利用を継続監視
小売全面自由化後、新規参入者の販売量比率は約19%まで上昇しました。事務局は、価格やサービスの競争が進んだ一方、地方では他エネルギーとの競争や人口減少によって事業継続が難しくなる可能性もあると分析しました。
家庭用販売額の最大シェアが8割未満で、小売事業者が10社以上存在する東京ガスネットワーク、大阪ガスネットワーク、東邦ガスネットワーク、西部ガスの4供給区域では、監視等委員会が家庭用小売価格の平均単価を公表します。
スタートアップ卸、LNG基地の第三者利用、振替供給についても、個別取引上の課題を定期的に調べます。結果によっては、事業規模や安定供給上の責務を考慮しつつ、制度的措置を検討します。残存する経過措置料金規制の解除時期は決めず、継続審議となりました。
委員は安全性、料金負担、投資予見性を指摘
澁谷忠弘委員(横浜国立大学総合学術高等研究院教授)は、令和8年熊本地震で災害時連携計画が実際に機能したかは今後検証されるため、現段階で「連携している」と評価するのは早いと指摘しました。燃料転換では変更管理に伴う事故リスクへ配慮し、DX人材の新規採用だけでなく、既存人材への教育投資も明記するよう求めました。事務局は表現を修正すると回答しました。
田中加奈子委員(アセットマネジメントOneシニア・サステイナビリティ・サイエンティスト)は、天然ガスへの転換は重要ですが最終目標ではないと述べました。2030年ごろまでの移行期と、その後の合成メタン、バイオガス、水素による脱炭素化を時間軸で示し、技術進展に応じて制度を柔軟に見直す必要があると指摘しました。
松平定之委員(西村あさひ法律事務所・外国法共同事業パートナー弁護士)は、LNG基地の第三者利用や卸取引では個別協議のルールが必ずしも明確でないとして、監視結果に応じた制度措置を支持しました。一方、政策変更が燃料転換投資の予見可能性を損なわないよう、5年後、10年後の検証と投資保護を両立するよう求めました。
平野創委員(成城大学経済学部経営学科教授)は、天然ガスから脱炭素ガスへ移る道筋を評価する一方、利用拡大には安全性を担保する投資が必要だと述べました。地域ごとに導管維持を含む適切な供給形態を検討し、料金へのコスト反映と事業者の効率化努力を併記すべきだと指摘しました。
五十川大也委員(大阪公立大学大学院経済学研究科教授)は、中小事業者がスマート保安や省人化へ実効性のある投資を行えるかが重要だと述べました。託送料金制度の変更が導管事業者の財務、消費者負担、安定供給、効率的な市場形成に与える影響を継続的に監視するよう求めました。
原郁子委員(日本消費生活アドバイザー・コンサルタント・相談員協会理事)は、託送料金を含む料金の適正性を消費者へ分かりやすく説明する必要性を指摘しました。料金プランや環境価値メニューを過度に複雑化させず、合成メタンなどが実際に脱炭素へ貢献しているか確認できる表示を求めました。
オブザーバーは新規参入と現場人材を重視
辻英人オブザーバー(日本ガス協会専務理事)は、託送料金制度の見直しを着実に進めるよう要望しました。大手、地方、新規参入を含む事業者が連携し、安定供給とGXを両立させる考えを示しました。
出口尚平オブザーバー(東京電力エナジーパートナーガス事業部長)は、新規参入者が小売・卸の双方で継続的に事業を運営できる環境が、市場競争と地方事業者の調達先拡大につながると指摘しました。需要家保護だけでなく、新規参入者の事業継続性を適正な取引環境へ含めるよう求めました。
木村昭彦オブザーバー(電気事業連合会理事・事務局長)は、保安水準を前提に、保安・開閉栓業務の外部委託や役割分担の見直しも検討すべきだと述べました。制度改正の進捗をこのWGへ継続的に報告するよう要望しました。
鍋島学オブザーバー(電力・ガス取引監視等委員会事務局総務課長)は、託送料金審査について、事業者の申請負担軽減と審査業務の効率化を検討すると説明しました。
2026年度中に省令・指針改正へ
事業者への実務的な影響は広範囲に及びます。導管事業者は、5年間の需要・投資計画を前提に託送料金を算定し、物価、賃金、工事費、資金調達コストを織り込む必要があります。金融機関にとっても、事業報酬率の見直しは導管投資やスマートメーター導入の資金調達条件に影響する可能性があります。
LNG基地を保有する事業者には隔週報告の実務が生じます。小売事業者には料金説明や環境価値表示の厳格化、新規参入者には卸条件と基地利用のモニタリング強化が関係します。オンサイトメタネーションの規制緩和は、ガス事業者、需要家、EPC事業者、機器メーカーに新たな案件機会をもたらす可能性があります。
山内座長は、取りまとめ案について基本的な同意が得られたと整理しました。軽微な修正を座長一任とした上でパブリックコメントへ進み、供給計画、託送料金、オンサイトメタネーション、取引・小売指針などの改正を2026年度中に進めます。次回会合の議題や開催時期は示されませんでしたが、WG自体は存続し、制度の実施状況と環境変化を継続的に検証します。
出典
総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 次世代電力・ガス事業基盤構築小委員会 ガス事業環境整備ワーキンググループ(第12回)