資源エネルギー庁は、2026年8月7日、第2回「石油等の供給構造の強靱化ワーキング・グループ」を開催し、原油・ナフサの調達先や輸送経路を平時から多角化する支援制度案を示しました。輸入事業者が多角化計画を作成し、経済産業大臣が認定したうえで、JOGMECが輸送費などを支援します。原資は原油・石油製品の全輸入業者から徴収する「多角化納付金」で賄う構想です。ただし、会合資料は「論点整理(案)」であり、制度導入が決定・了承されたわけではありません。
事務局は併せて、約9,000万バレルを放出した国家備蓄について、2026年度中に国際エネルギー機関(IEA)基準の90日分まで戻し、2027年度中にはナフサの国内精製分も考慮した「原油輸入量の90日分」まで回復する目標案を提示しました。第1回会合で論点となったナフサの備蓄対象化は、具体的な義務日数や対象事業者をなお定めず、備蓄水準と調達多角化を一体で検討する段階です。
備蓄放出は機能、代替調達の速度と費用が課題
事務局は、2026年の中東情勢により原油タンカーが長期間にわたり事実上ホルムズ海峡を通航できず、日本の石油輸入量が急減したと説明しました。政府は4月、過去最大規模となる国家備蓄石油の放出を実施し、その間に官民で代替調達を進めました。7月と8月の調達量は前年の平月比でおおむね10割まで回復する見通しで、備蓄放出で不足を補いながら輸入ルートを切り替える対応は一定の役割を果たしたとの評価です。
一方、同じ対応が次の危機でも再現できるとは限りません。代替原油の入手量は国際市場の在庫や需給に左右され、危機発生後のスポット調達には価格上昇も伴います。資料では、2026年4月の原油タンカーのスポット運賃が前年同月比で約11倍となり、輸送費への影響は1バレル当たり約9ドルとの試算が示されました。米国産原油は2025年実績で中東産より輸送費が1バレル当たり約2ドル高く、平時の多角化には恒常的な追加費用が発生し得ます。
大臣認定とJOGMEC支援、全輸入業者で費用負担
新制度案は、ホルムズ海峡のような特定のチョークポイントを経由しない原油・ナフサの安定輸送を政策的に支える仕組みです。サウジアラビアの東西パイプラインを利用して紅海側のヤンブーから積み出すルートや、UAEのパイプラインを通じてホルムズ海峡外のフジャイラから出荷するルート、非中東産原油への切り替えなどが想定されます。
輸入事業者は調達先・輸送経路の多角化計画を提出し、経済産業大臣の認定を受けます。JOGMECは経済性や供給構造の強靱化への寄与度を評価し、輸送費などを支援する案です。支援原資を多角化に取り組む事業者だけでなく、原油・石油製品の全輸入業者から納付金として集めることで、危機時の供給確保に必要な費用を業界全体で平準化する考え方です。
もっとも、支援対象を長期契約に限るのか、スポット調達も含めるのかは未確定です。対象数量、支援率、認定基準、納付金の算定方法、徴収開始時期、法律改正の要否も決まっていません。中東産原油でもホルムズ海峡を回避するルートと非中東産原油では、リスク低減効果や追加費用が異なります。画一的な補助・負担にせず、経済性と多角化への寄与をどう比較するかが制度設計の核心になります。
国家備蓄は2026年度、2027年度の二段階で回復
国家備蓄は2026年2月末の約2億6,000万バレルから、約9,000万バレルの放出を経て約1億7,000万バレルまで低下しました。事務局は油価や在庫、国内需要を見ながら買い戻し、まず2026年度中にもIEA基準の90日分へ回復させる方針案を提示しました。その後、2027年度中にナフサの国内精製分を含めた「原油輸入量の90日分」へ積み増す二段階の工程です。
ナフサはプラスチックや合成樹脂などの基礎原料ですが、現行の石油備蓄制度では備蓄義務の対象外です。今回の危機では、原油を精製するとガソリンなどと同時に生産される「連産品」として国内ナフサが供給されました。この実態を踏まえ、輸入ナフサそのものを保有する方法だけでなく、原油備蓄から生産可能なナフサも考慮し、制度上の対象と水準を検討します。
ただし、2027年度の目標は事務局が示した方向性であり、民間の備蓄義務日数を直ちに増やす決定ではありません。国家備蓄、民間備蓄、産油国共同備蓄、輸入ルートの多角化をどのように組み合わせるかは継続審議です。油価上昇時に買い戻しを急げば財政負担が増えるため、回復速度と調達コストの均衡も必要になります。
委員意見の正式記録は未公表、論点整理案の扱いに留意
8月10日時点の公式会合ページには、議事次第、委員等名簿、事務局資料、論点整理案が掲載されています。一方、議事要旨・議事録および第2回会合を確認できる公式動画は掲載されていません。このため、個々の委員やオブザーバーの発言、論点整理案が会合で正式に了承されたかどうかは公開資料だけでは確認できません。
資料4は、制度を検討する際に、製油所と石油化学など川下産業の国際競争力、中東・アジア諸国との関係、事業者間の公平性へ配慮する必要を明記しました。さらに、全輸入業者に負担を求める以上、政府には支援制度と財源の必要性を説明する責任があります。したがって現段階で確定したのは会合の開催と事務局案の提示であり、多角化納付金の導入、徴収対象、支援条件は継続審議と整理するのが適切です。
元売り・石化会社は調達契約と資金計画を再検討
制度化された場合、石油元売りやナフサ輸入事業者は、長期契約とスポット調達の組み合わせ、船腹やパイプラインの確保、非中東産原油の処理適性を含めた多角化計画を作る必要があります。支援対象に認定されれば割高な輸送費の一部を抑えられる一方、全輸入業者に納付金が課される設計なら、多角化に直接取り組まない事業者にも費用負担が生じます。
製油所では原油の性状によって得られる製品構成や設備運転が変わるため、調達先の変更は輸送費だけでなく精製収率、装置稼働、製品販売まで含む事業収支に影響する可能性があります。石油化学会社にとっては、輸入ナフサと国内精製ナフサの調達比率、在庫水準、運転資金の見直しが課題です。金融機関も、貿易金融や在庫金融で納付金負担、支援の認定条件、危機時の価格変動を織り込む必要が生じ得ます。
一方、対象数量や支援率が未定のため、現時点で設備投資額や採算改善効果を算定することはできません。今後は調達段階の制度設計を詰めた後、国内精製・製造能力の維持、化石燃料を代替する燃料の拡大などを追って議論する構成です。次回会合の日程や具体的議題は、公開資料では示されていません。
出典
総合資源エネルギー調査会 資源・燃料分科会 資源開発・燃料供給小委員会 第2回石油等の供給構造の強靱化ワーキング・グループ