経済産業省は、2026年8月7日付の幹部人事で、村瀬佳史氏を資源エネルギー庁長官に留任させる幹部人事を発表しました。2023年7月の就任から異例の4年目に入り、電力需要の増加に対応する供給力確保や電力システム改革の再設計を引き続き担います。
通商、デジタル、エネルギー分野を歴任
村瀬氏は1990年に通商産業省へ入省し、通商政策局国際経済課長補佐、JETROシンガポール、通商政策局アジア大洋州広域開発担当企画官などを歴任しています。
商務情報政策局情報経済課長時代には、アジア開発銀行(ADB)と連携し、インドにおけるスマートコミュニティ開発にも携わりました。現地の政府機関や企業と事業形成を進めた経験を持ち、制度設計だけでなく、海外プロジェクトの実装過程を知る政策官僚でもあります。
筆者もADB時代そのカウンターパートとしてインドでお仕事をご一緒させていただきましたが、判断力のシャープさと、決断力と実効力の速さは経産省官僚の中でも群を抜いていました。
その後、経済産業政策局調査課長、資源エネルギー庁電力・ガス事業部政策課長兼電力改革室長、長官官房総合政策課長、電力・ガス事業部長を歴任されました。政策課長時代には、電力小売り全面自由化など一連の電力システム改革を担当しています。
事務次官キャリアパスの「王道」
通商政策と資源エネルギー政策の双方を経験することは、国際経済と国内産業政策を束ねる経産省幹部の有力なキャリアパスです。
元事務次官の嶋田隆氏も、通商政策局長を経て次官に昇格する一方、原子力損害賠償支援機構や東京電力で福島第一原発事故への対応を担いました。
現在の藤木俊光事務次官は1988年入省、村瀬氏は1990年入省です。年次からみれば、次回以降の次官人事で村瀬氏が候補になり得る範囲にあります。資源エネルギー庁長官から事務次官に就いた例も、2008年就任の望月晴文氏などがあり、制度上も人事慣行上も昇格の道は閉ざされていません。
一方、近年は経済産業政策局長、大臣官房長、経済産業審議官などからの昇格が多く、2026年8月時点では1991年入省の荒井勝喜経済産業審議官、1992年入省の畠山陽二郎経済産業政策局長らもいます。したがって「次官就任が有力」とまでは断定できませんが、4年目の長官留任によって候補の一人として残ったとみる余地はあります。
電力改革を投資につながる制度へ
今後の評価を左右するのは、自由化後の電力市場を安定供給と長期投資が両立する制度へ組み直せるかです。容量市場では追加オークションでも必要量を確保できない事例が現れ、データセンターや半導体工場の需要増加を見据えた供給力形成が急務になっています。
具体的には、実需給の5~10年前から脱炭素電源を確保する仕組み、長期脱炭素電源オークションと容量市場の整理、同時市場や需給調整市場の再設計、送電網投資、原子力再稼働、再エネ・蓄電池・デマンドレスポンスの統合が課題です。旧一般電気事業者に供給責任を求めながら、小売り・発電部門の競争条件を公平に保つ難題も残ります。
村瀬氏が、自ら関与した自由化を否定するのではなく、その限界を補う「第2段階の電力システム改革」に道筋をつければ、エネルギー政策の実績に通商、デジタル、マクロ経済の経験が加わります。その成果は、次の経済産業事務次官を展望する際の重要な判断材料になりそうです。
出典 経済産業省「幹部人事」/経済産業省幹部名簿/METI Journal「エネ庁長官が語る。世界の潮流と日本のエネルギー政策」/嶋田隆氏経歴