産業構造審議会の自動車リサイクルワーキンググループは、中央環境審議会の自動車リサイクル専門委員会との合同会議で、「自動車リサイクル制度の施行状況の評価・検討に関する報告書」を取りまとめました。
報告書は、2005年の自動車リサイクル法施行から20年が経過した制度について、全体としては「概ね順調に機能してきた」と評価しました。一方、中古車輸出の増加、国内で処理される使用済自動車の減少、解体業者による不適正処理、電動車用蓄電池の増加など、制度の前提を変える課題が表面化したと指摘しています。
不法投棄は98%減、ASR再資源化率は95%超
自動車リサイクル法は、自動車メーカーなどにフロン類、エアバッグ類、自動車破砕残さ(ASR)の再資源化を義務付け、所有者がリサイクル料金を前払いする仕組みです。
委員会は、不法投棄・不適正保管車両が法施行前から約98%減少し、ASR再資源化率も近年95%以上と、目標の70%を安定的に上回っている点を成果として挙げました。車両ごとの処理状況を追跡する自動車リサイクルシステム(JARS)も2026年1月に大規模改修され、制度を支える情報基盤は強化されています。
ただし、不法投棄・不適正保管車両は全国で約5000台残り、新たな発生も毎年数百台あります。能登半島地震で顕在化した焼損車、水没車などの被災車両についても、撤去や輸送に通常以上の費用がかかるため、自治体、業界団体、自動車リサイクル促進センター(JARC)の連携強化が必要としました。
使用済自動車が256万台まで減少
最大の構造変化は、国内で解体・破砕される車両の減少です。2024年度末の自動車保有台数は約7859万台、新車販売台数は約458万台でしたが、使用済自動車の発生台数は2018年度以降減少し、2024年度には約256万台となりました。一方、中古車輸出は約184万台まで増えています。
オートオークションでは年間約750万台が出品され、約530万台が成約しています。解体業者の85%以上が直近10年間で調達台数が減ったと回答し、使用済自動車を目的とする平均落札率も約2割にとどまりました。
国内で処理する車両が減れば、解体・破砕事業者やASR処理施設の経営基盤が弱まり、プラスチック、鉄、アルミ、銅などの循環資源も海外へ流出します。委員会は、複数回流札した車両を解体業者へ斡旋する仕組みや、使用済自動車に相当する車両の出品管理など、オークション市場の入口と出口の両面で対策を検討するよう求めました。
もっとも、中古車輸出自体は正当な経済活動です。輸出業者はリサイクル料金の返還を受けられる一方、港までの輸送費や海上運賃などを負担しています。報告書も、輸出業者と解体業者の競争条件は料金返還だけで決まるものではないとして、輸出返還制度の即時見直しには踏み込みませんでした。
「中古車か廃車か」の境界が曖昧
より直接的な問題は、修理困難な車両や部品を外した車両が中古車として流通・輸出されるケースです。現行の判別ガイドラインでは違反認定が難しく、自治体や輸出現場の判断に委ねられる場合があります。
廃車ガラの輸出では、フロン類やエアバッグ類が適切に回収されたことを示す書類の提出が任意であり、未回収や虚偽報告を疑わせるデータも確認されています。委員会は、電子マニフェストの画面、現場写真、事前回収を証明する書類の保存・提示など、追加対策の検討を2026年度から始めるべきだとしました。
解体業者についても、許可後の指導件数が多い状態が続いています。日本語での意思疎通が難しい外国籍事業者の増加も踏まえつつ、国籍にかかわらず必要な知識・技能を確認できる許可基準を設け、JARCを主体とする講習会や検定制度を整備する方向です。
車載用LiB、2040年度に年間40万個
電動化への対応も急務です。2024年度に使用済自動車として引き取られたハイブリッド車と電気自動車は約12万台で、全体の約5%でした。使用済車載用リチウムイオン電池(LiB)の排出量は、2030年度に年間約13万個、2040年度には約40万個へ増えると推計されています。
現在は自動車メーカーが自主的に費用を負担する共同回収スキームがあります。しかし、排出量の増加で費用負担が重くなった場合のメーカー離脱、国内市場から撤退するメーカー、共同回収に参加しない新規参入企業への対応が明確ではありません。
損傷電池の発火リスクに加え、資源価値が比較的低いリン酸鉄リチウムイオン電池(LFP)の普及も課題です。売却価値が処理費を下回れば、適正回収の経済性が崩れる可能性があります。委員会は2026年度中に作業部会を設置し、回収責任、費用負担、リユース・リサイクル、安全管理を集中的に検討するよう提言しました。
再資源化率から「循環の質」へ
ASR再資源化率は95%を超えていますが、その約70%は熱回収です。マテリアルリサイクルは約30%、うちプラスチックは約1.5%にとどまります。高い再資源化率だけでは、自動車から自動車へ素材を戻す水平リサイクルの進展を十分に示せません。
2026年4月には、ASRになる前にプラスチックやガラスを回収した事業者へ、ASR減量で生まれる資金を還元する「資源回収インセンティブ制度」が始まりました。しかし、参加意向を示す解体・破砕事業者は約4割で、地域の中小企業には選別設備、保管場所、輸送、コンソーシアム形成などの参入障壁があります。
欧州では新車に使用する再生プラスチック比率を、規則発効6年後に15%、10年後に25%とする方向が示されています。委員会は、日本でもリユース部品の品質・保証情報の整備、プラスチックやガラスの事前回収、ASRからのマテリアル・ケミカルリサイクル、永久磁石に含まれるレアアースの回収を進める必要があるとしました。
廃棄物処理制度から産業・資源政策へ
今回の報告書が示した最大の方向転換は、自動車リサイクル政策の重点を「不法投棄を防ぎ、適正処理する制度」から、「国内に循環資源を確保する産業基盤」へ広げたことです。
ただし、国内処理を増やすだけでは解決しません。中古車輸出の自由、解体業者の経営、メーカーの費用負担、再生材の品質と価格、電池の安全性を同時に成立させる必要があります。再生材利用を義務化しても、回収・選別費用を誰が負担するかが決まらなければ、負担は解体業者や自動車ユーザーに集中します。
委員会は、JARSに蓄積される車両、LiB、輸出、事業者別データを立入検査や政策評価に活用し、重要課題は早期に検討を開始する一方、制度全体については定期的にフォローアップし、遅くとも5年後をめどに再評価するとしました。自動車リサイクル制度は、廃棄物行政だけでなく、電動化、経済安全保障、脱炭素、製造業の競争力を支える制度へ移行する局面に入っています。