ルール変更が生む「規制リスク」
電力システムを巡る状況は不透明性を増しており、制度の不確実性が事業収益のボラティリティーを高めています。一方、蓄電池や再生可能エネルギーには外資系企業の参入が活発化し、市場・規制のガバナンスとアカウンタビリティーの十全の確保に対し懸念する声も一部にあります。
規制リスクとは、法令、行政指導、市場規則、運用判断の変更によって投資回収条件が変わる可能性です。変更自体が直ちに違法となるわけではなく、事前予告、理由開示、非差別性、経過措置、不服申立ての有無が判断の軸になります。
欧州では制度変更が投資仲裁へ
EU電力市場指令2019/944は、送配電事業者による調整力・柔軟性サービスの調達について、透明、非差別、市場ベースを原則とし、再エネ、蓄電池、DR、アグリゲーターの参加を求めています。
外資勢を含め様々なステークホルダーが参入した結果、紛争が多発しています。
スペインによる再エネ支援制度の変更を巡っては、エネルギー憲章条約に基づく投資仲裁が相次ぎました。
伊藤忠商事対スペイン事件でも2024年12月に仲裁判断が示され、スペインが申し立てた取消手続は2026年も続いています。制度変更が外国投資家の正当な期待を不当に損なったかが主要論点です。
欧米では市場設計を司法が検証
英国ではDR事業者Tempus Energyが容量市場における発電所との扱いの違いを争い、EU一般裁判所が2018年、欧州委員会の国家補助承認を取り消しました。
容量市場は一時停止され、2019年の正式調査と再承認を経て再開。2021年にはEU司法裁判所が一審判決を覆しましたが、制度設計の説明不足が市場全体を停止させ得ることを示しました。
Ofgemも蓄電池、太陽光、DR事業者による容量市場の不服申立てを毎年公開しています。
米国では連邦電力法が、卸市場規則を「公正かつ合理的」で「不当に差別的・優遇的でない」ものとするよう要求します。
DR報酬を定めたFERC Order 745は2016年に連邦最高裁、蓄電池の市場参入障壁を除くOrder 841は2020年に連邦控訴裁判所で争われ、いずれも維持されました。頻繁な制度変更は米国にもありますが、公開ドケット、再審理、正式申立て、司法審査によって決定過程を追跡できます。
予見可能性の確保が焦点に
日本においても、制度・ルールの改定が相次いでいます。こうした中で中部電力パワーグリッドが、2025年4月から約61万kWの揚水随意契約を運用しながら、公表は同年10月となりました。
中国電力ネットワークも2026年6月8日に約15万kWの契約を公表し、翌日取引分から需給調整市場の募集量を変更しています。
応札不足への対応という合理性は十分にあるものの、審議会での「整理」や行政指導が事実上の参入条件となる場合には、法的根拠、選定基準、価格検証、市場容量への影響を明示する必要があるかもしれません。
今後、国内外で電力市場取引を巡るガバナンス・アカウンタビリティの確保が議論の対象となる可能性があるでしょう。
【参考】EU電力市場指令2019/944
【参考】Ofgem「Capacity Market Disputes」
【参考】ICSID「ITOCHU Corporation v. Kingdom of Spain」
【参考】中部電力パワーグリッド「揚水発電機を用いた随意契約」