Renewablは、2026年7月17日、稼働済みの再生可能エネルギー発電所から電力を調達する「オペレーショナルPPA」と、新設・既設電源を組み合わせる「ブレンデッド・ステータスPPA」に関する市場分析を発表しました。
従来の企業向けPPAは、追加性を重視し、新設の太陽光・風力発電所と10~15年契約を結ぶ形が中心でしたが、電力価格の変動、建設遅延、マイナス価格の増加を受け、既設電源を含む短期・複合型の調達へ関心が移っています。
同社が引用したS&P Globalのデータによると、欧州の企業向けPPA契約量は2026年第1四半期に前年同期比で約50%減少し、3GW強にとどまりました。Pexaparkの集計でも、2025年上半期の企業向けPPAは前年同期比40%超減の約4.3GWだった一方、電力会社向けPPAは2倍の1.8GW、28件に増えました。PPAの役割が、再エネ設備の新設支援だけでなく、電力調達費を安定させるヘッジ手段へ広がっていることを示します。(renewabl.com)
稼働済み電源なら建設リスクを回避
オペレーショナルPPAは、すでに系統接続され、商業運転を開始している発電所を対象とする電力購入契約です。新設案件を対象とするグリーンフィールドPPAでは、許認可、資材調達、系統接続、建設費上昇などによって商業運転開始日(COD)が12~24カ月遅れる場合があり、契約交渉や社内承認にも6~12カ月程度を要することがあります。
既設案件では建設と試運転が終了しているため、契約期間は一般に3~7年と短く、契約後数週間で供給を開始できる場合があります。契約締結の前提条件(Conditions Precedent)も、計量データ、系統接続、環境価値の権利関係、物理PPAの場合の小売事業者によるスリービングの確認などに絞りやすくなります。新設案件で必要になるCOD保証、遅延損害金、長期停止期限、建設中止時の解除条項も簡素化できます。(renewabl.com)
発電実績があることも重要です。新設案件ではP50、P90などの発電量予測を基に契約量を決めますが、既設案件では過去の30分値や時間値から、季節変動、設備利用率、経年劣化、出力制御、停止実績を確認できます。買い手は実績データを用いて、受取電力量、環境価値証書の数量、余剰売電と不足調達の発生時間を事前に試算できます。
太陽光単独では夕方の価格リスクが残る
ドイツやスペインでは、太陽光発電量が多い昼間に卸価格が低下し、夕方には太陽光出力が減る一方で需要が残るため、時間帯別の価格差が拡大しています。Renewablによると、マイナス価格の発生時間は、ドイツで2025年4月から2026年4月に65%、スペインでは2025年2月から2026年2月に148%増加しました。太陽光単独のPPAは昼間の価格を固定できても、高価格となりやすい夕方や夜間の購入分を十分にヘッジできません。(renewabl.com)
年間消費量と年間発電量が同じでも、実際の需要時間と発電時間が一致するとは限りません。Renewablの分析では、年間調達率が90~100%の企業でも、時間単位の一致率は40~50%程度にとどまる例があります。同社の試算では、同じ年間カバー率でも、太陽光単独の時間別CFEスコアは41~44%、比較的出力が平準化された風力単独では75~78%となりました。(renewabl.com)
このため、PPAを評価する際には、契約価格だけでなく、各時間帯で需要の何%を固定価格電源がカバーするかを見る必要があります。昼間の余剰電力を低価格で売却し、夕方の不足分を高価格で買い戻す構造では、表面上のPPA価格が安くても、実質的な調達費が上昇する可能性があります。
PPAは「需要曲線」から逆算して構成
企業がPPAを構成する第一歩は、年間使用電力量ではなく、事業所別・時間別のロードプロファイルを把握することです。その上で、需要のベース部分には既設風力など出力形状が比較的平坦な電源、昼間需要には太陽光、夕方の不足時間には蓄電池、デマンドレスポンス、時間追従型の小売供給を組み合わせます。
追加性を確保する部分には、新設太陽光、風力、蓄電池併設型電源などのグリーンフィールドPPAを配置します。これに対し、2030年目標までの短期的な調達量や価格安定には、稼働済み電源を使うオペレーショナルPPAを充てます。残る不足時間は、小売電気事業者の電源調達、スポット市場、グリーン料金、環境価値証書などで補完する構成が考えられます。
この組み合わせを一つの契約または共通の基本契約にまとめるのが、ブレンデッド・ステータスPPAです。例えば、既設電源から直ちに供給を始め、新設電源のCOD後に契約量を段階的に増やします。買い手は既設部分で当面の価格確実性を得ながら、新設部分で追加性を確保できます。財務部門が求める短・中期の予算安定と、サステナビリティ部門が求める新規再エネ投資を、同じ調達計画の中で両立させる設計です。(renewabl.com)
価格方式とリスク分担が実質コストを決める
契約構造では、まず物理PPAとバーチャルPPAのどちらを選ぶかを決めます。物理PPAでは、発電電力を小売電気事業者などが需要地点まで取り次ぎます。バーチャルPPAでは電力を物理的に受け渡さず、契約価格と卸市場価格の差額を金融的に精算し、買い手は通常の小売契約を継続します。
次に、発電した分を受け取るPay-as-Produced型、一定量を時間ごとに受け取るベースロード型、需要形状に近づけたシェイプド型などを選択します。Pay-as-Produced型は価格が低くなりやすい一方、発電量、時間帯、インバランスのリスクを買い手が負いやすくなります。ベースロード型やシェイプド型では、電力会社やトレーダーが形状変換と不足補給を担いますが、その費用がPPA価格に上乗せされます。(renewabl.com)
交渉では、マイナス価格、出力制御、設備停止、発電量不足、環境価値証書の未交付について、誰がどこまで負担するかを定める必要があります。稼働済み案件では過去実績を利用できるため、マイナス価格が一定時間を超えた場合に発電を停止する条項や、損失を発電事業者と買い手で分担する条項を設計しやすくなります。Renewablは一例として、マイナス価格時の負担を60対40で分ける構造を挙げていますが、実際の比率は発電所の立地、電源種別、契約価格に応じて決まります。(renewabl.com)
ブレンデッドPPAの価格は、既設電源と新設電源の契約価格を数量加重し、スリービング、需給調整、形状変換、環境価値管理などの費用を加えて算定します。安い発電単価だけで案件を比較するのではなく、余剰売却損、不足調達費、エリア間のベーシスリスクを含む総調達費を複数の市場価格シナリオで検証することが重要です。
RE100とScope2改訂にも対応
既設電源の利用では、環境価値の適格性を別途確認する必要があります。RE100の技術要件は原則として、運転開始またはリパワリングから15年以内の設備からの調達を求めています。価格ヘッジや時間一致に優れた既設風力であっても、設備年齢によってRE100目標への算入条件が異なる可能性があります。(クライメートグループ)
GHGプロトコルのScope2改訂案では、マーケット基準手法に用いる契約手段について、時間単位の一致と、需要地点へ電力を届け得る地域内からの調達が提案されています。最終基準の公表は2027年が見込まれ、複数年の移行期間も検討されています。既設電源は実測された時間別発電データを持つため、PPA締結前にアワリーマッチング率や環境価値の供給量を検証しやすい利点があります。(GHGプロトコル)
企業向けPPAは、新設電源を一件選び、年間使用量を合わせるだけの契約から、既設・新設、風力・太陽光・蓄電池を組み合わせるポートフォリオ調達へ移りつつあります。Renewablは、オペレーショナルPPAを単なる低価格調達ではなく、建設リスクを抑え、供給開始を早め、時間別の価格ヘッジを改善する手段としています。今後は、追加性、アワリーマッチング、実質的なヘッジ効果を一つの契約でどう配分するかが、企業のPPA戦略を左右します。
出典
Renewabl「Operational Power Purchase Agreements: what they are and why demand is growing」
Renewabl「PPA risk management: How to tell if your contract is really hedging your energy costs」
Pexapark「Unpacking H1 Deal Flow: 5 Key Trends」
GHG Protocol「Hourly Matching and Deliverability」
EnergyTag「Response to Call for Evidence on Barriers to PPAs」