資源エネルギー庁は、2026年8月3日、第3回中長期取引市場検討ワーキンググループを開催しました。今回は、燃料費を事後調整する商品の設計、市場範囲と市場分断リスクに加え、最大出力500万kW以上の大手発電事業者などに求める市場供出の具体化を審議しました。
会合では、燃料費調整付き商品の数に制度上の上限を設けない方向に大きな異論は出ませんでした。
一方、全国一律市場、東西などの複数市場、9エリア市場、新たに示された「エリア指定入札」のいずれを採るかは結論が出ず、供出量の算定・配分方法や供出期間、売れ残りの扱いも継続審議となりました。
制度設計WGは500万kW以上・販売電力量の10%を軸に整理
電力システム改革の検証を踏まえた制度設計WGでの議論では、少なくとも市場開設から当分の間、保有電源の最大出力合計が500万kW以上の発電事業者を対象に、原則として電気事業者の販売電力量の10%を市場へ供出させる基本方向を整理しています。対象事業者の供給力は、2026年3月時点で国内総供給力の71.4%を占めます。
対象はJERA、関西電力、電源開発、東北電力、九州電力、中国電力、東京電力リニューアブルパワー、中部電力、北海道電力、北陸電力、東京電力ホールディングス、四国電力です。500万kW未満でも特定エリアの卸供給で支配的地位を持つ事業者を含める案や、会社分割で基準を下回った場合も供出対象から直ちに外さない案が示されました。ただし、「支配的地位」の定義は未決定です。
市場範囲と分断リスク
事務局は市場範囲について、(A)全国を一つの市場とする単一市場、(B)東日本・西日本などに分ける複数市場、(C)9エリア市場、(D)買い手が約定対象となる電源エリアを指定するエリア指定入札の4案を比較しました。
市場を広くするほど売買注文が集中し、匿名性や競争性を確保しやすい一方、受渡時に連系線混雑による市場分断が発生すれば、売り手と買い手の間でエリア間値差を清算する必要があり、全国市場では大きな値差リスクが生じる可能性があります。
9エリア市場は分断の影響を受けにくい反面、注文が分散し、売り手を推定されやすくなります。今回提示されたエリア指定入札は、一つの板へ注文を集めながら、指定エリアの電源とだけ約定させることで分断リスクと匿名性の両立を図る案です。
ただし、実質的には9エリア市場に近く、価格が交差してもエリアが異なれば約定しないため、価格指標の分かりやすさ、約定エリアの開示方法、システム構築・運営費が今後の検討課題となりました。
10%の総量を実績発電量で按分、FITなどの控除を提案
事務局は、供出総量の基礎となる販売電力量について、小売電気事業者が毎年2月上旬に提出する供給計画の年間需要電力量、具体的には提出年度の推定実績値を用いる案を提示しました。その総量を、対象となる発電事業者の送電端電力量の推定実績値で按分します。
太陽光、風力、揚水式水力、蓄電池については、ベース・ミドル商品を安定的に供給することが難しいことなどから、按分に使う発電量から控除する案も提示されました。全量売電が原則となるFIT電源も控除する一方、売却先に制限のないFIP電源は控除しない考えを示しました。
グループ会社の発電量は出資比率を乗じて合算し、対象事業者や親会社から3分の1以上の出資を受ける会社まで含める案と、50%以上を保有する会社に限定する案を併記しました。同一グループ内では、実際にどの会社が供出するかを裁量で配分できる設計も提案しています。
3年前と1年前への配分、供出集中期間も選択肢
供出量は実需給年度ごとに算定し、3年前商品と1年前商品へ配分します。事務局は、3年前に7分の5、1年前に7分の2を固定配分する案、両商品に最低割合だけを設定する案、3年前に全量を出して売れ残りを1年前へ回す案を示しました。これは、小売電気事業者の供給力確保について3年度前に想定需要の5割、1年度前に7割を確保させる検討と対応します。
供出期間も、販売期間を通じて札を出し続ける案と、一定期間に供出を集中させる案が並びました。後者は市場自体を閉じるのではなく、通年取引を可能としながら、指定期間だけ供出を義務付ける設計です。回数、時期、1週間・1カ月などの期間、冒頭に板寄せを行うかは決まっていません。
売れ残った札も、今後定める価格規律に適合し、所定期間に市場へ提示されていれば供出履行に数える案です。3年前商品の未約定分を1年前に再供出させるかについては、小売の調達機会を重視する案と、発電側の相対販売の自由度や予見可能性を優先する案に意見が分かれました。
委員はピーク商品の不足と価格指標性を問題視
五十川大也委員(大阪公立大学経済学研究科教授)は、燃料費調整付き商品の上限撤廃に異論はないとしつつ、需要の薄い商品へ供出が偏らないよう開設後のモニタリングを求めました。供出集中期間と板寄せは流動性や価格指標の形成に有効であり、1年前の供出量は直近データで再算定する案に合理性があると述べました。
滝澤紗矢子委員(東京大学大学院法学政治学研究科教授)は、3年前・1年前商品がベース中心となれば、小売電気事業者がピーク・ミドル需要を確保できない可能性を指摘しました。発電側の実行可能性と小売側の供給力確保義務を両立させる必要があると強調しています。また、エリア指定入札は実質的に9エリア市場へ近づく可能性があり、約定エリアや燃料費調整条件を開示しなければ価格指標として機能しにくいと述べました。
河相早織委員(長島・大野・常松法律事務所パートナー弁護士)は、分社化後も供出対象に残す場合の責任主体を明確にするよう求めました。売れ残りを1年前へ繰り越す際は、3年前の商品をそのまま再供出するのではなく、量だけを引き継ぎ、需要に合う商品へ組み替えられるなら再供出案が有効だとしました。事務局も、商品ではなく量を引き継ぐ想定だと回答しました。
エリア指定入札、匿名性と分かりやすさが対立
城所幸弘委員(政策研究大学院大学教授)は、売り手が限られ、小売側に事前調達義務が課される市場では、発電側が相対的に有利になる構造を考慮すべきだと指摘しました。極端に高い価格で札を出し、未約定でも供出義務を果たせる制度では価格指標を形成できないため、価格監視との一体設計を求めました。
安藤至大座長(日本大学経済学部教授)は、買い手が複数エリアへ異なる価格で連動注文を出し、一方が約定したら他方を自動調整する仕組みを提起しました。ただし、商品やエリアが増えるほど約定計算とシステムが複雑になるため、開設当初の商品数を限定する可能性にも言及しました。
事務局のエリア指定案は、一つの板に売り札を集めつつ売り電源のエリアを非表示とし、買い手が約定可能なエリアを指定する方式です。市場分断時の値差を避けながら匿名性を確保できますが、価格が交差してもエリアが違えば約定しないため、分かりにくさやシステム構築費が課題になります。
オブザーバーは買い手と売り手で意見が分かれる
中島伸吾オブザーバー(東邦ガス電力事業推進部長)は、新電力にとって価格高騰リスクの大きいピーク商品の確保が重要だと説明しました。供出期間を限定する場合も、四半期ごとなど年複数回、各回1~2カ月程度の購入期間を求めました。
川島創オブザーバー(JERA国内マーケット戦略・企画部長)と高木宏彰オブザーバー(関西電力執行役員・エネルギー・環境企画室長)は、一定期間へ供出を集中する案と、3年前の売れ残りを1年前に再供出させない案を支持しました。長期間の札提示や再供出義務は、燃料ヘッジ、電源運用、相対契約を制約し、入札価格を押し上げる可能性があると指摘しました。高木オブザーバーは、共同出資SPCを一律にグループ算定へ含めることにも慎重な検討を求めています。
野澤遼オブザーバー(enechain代表取締役社長)は、流動性を集中させつつ特定時点の価格高騰に左右されないよう、供出期間を年複数回設ける案を提案しました。國松亮一オブザーバー(日本卸電力取引所企画業務部長)は、相対取引も含めた電源の販売・調達状況を把握し、市場への売り方まで過度に固定しない設計を求めました。塚本浩敏オブザーバー(東京商品取引所総合業務室市場企画担当室長)は、売買価格が交差しても約定しない板はトレーダーに分かりにくく、約定ロジックと運営費が複雑化すると懸念を示しました。
決定は商品範囲に限定、供出方法は継続審議
今回、最低限扱う商品については、3年前1年物のベース商品と、1年前1年物のベース・ミドル商品を基本とし、原油などの指標を使う事後調整付き商品と固定価格商品を設ける方向が示されました。事後調整付き商品の数には制度上の上限を置かず、運営者がニーズと流動性を踏まえて設定・廃止する案に大きな反対はありませんでしたが、ピーク商品の扱いを含めて追加検討が必要です。
一方、エリア指定入札、供出量の按分、変動性電源の控除、グループ会社の範囲、3年前・1年前への配分、供出期間、売れ残りの再供出はいずれも決定されていません。事務局は、今回の意見を整理して検討を続けると回答しました。
発電事業者には、供給計画を基礎とする供出量の算定が相対販売、燃料調達、ヘッジ、電源運用に直結します。
小売電気事業者には、ピーク・ミドル商品の有無や供出時期、エリア別流動性が調達計画と供給力確保義務の履行を左右します。
市場運営者には複数条件を処理する約定システムと価格監視が必要となり、金融機関にとっても価格指標の信頼性が長期契約や与信判断に影響する可能性があります。
次回以降は値差ヘッジを検討
事務局は、3年前商品では現行の間接送電権が利用できない問題を踏まえ、間接送電権の拡張、エリアスプレッド取引、金融的送電権などの値差ヘッジ手段と中長期取引市場との関係を、次回以降に検討する方針を明示しました。
市場範囲の結論は、このヘッジ手段、価格指標性、匿名性、システム実装可能性を併せて判断することになります。
出典
総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 次世代電力・ガス事業基盤構築小委員会 中長期取引市場検討ワーキンググループ(第3回)